プロローグ
初投稿です。
どうしてこうなった……?
目の前にはぼろぼろと土塊を巻き落としながら踊る人型。
それを嬉しそうに見ながら土塊をスケッチする少女。
不安しかない。
これから先を考えると絶望を覚えてしまう。
え、これってもしかして積んでない?
ハードモードですか? そうですか⋯⋯。
「大丈夫ですよー! 少しくらい泥が落ちたってまた再生するんですよ。むしろ元気いっぱいなくらいです!」
これからの事を考えて頭をかかえる辛気臭い俺の表情に何を勘違いしたのか少女は元気良く答える。
ボサボサなこげ茶色の髪からはつり上がった赤い瞳が覗く。燃えるような真紅の目を真っ直ぐ俺に向ける。
手に持ったスケッチブックから泥の塊のラフ画が見えた。ちらりと見えたそれは変なポーズを取っていた。
「そ、そうか。それはなによりだ⋯⋯」
今考えている事はそんな事じゃねえよと思いながら、年の割にちいさなその少女の凛とした眼差しを向けられると落ち着かず本音を隠して返してしまった。
自分よりも一回りも年の離れた少女にへたれてしまった自分が情けない。
視線を逃がすようにそのまま踊る人型の物体に目を向ける。
「〜♪ 〜〜〜♪」
声帯は無いはずなのに踊りながら歌っている⋯⋯ようにみえる。実際には歌声は聞こえないはずなのに、その踊りを見ると引き込まれるように幻聴を感じてしまう。
身長は少女より頭一つ分ほど大きい。成人男性である俺よりも少し小さいぐらいだ。
あ、泥が顔にかかったじゃねえかこの野郎⋯⋯。
「あっ、ワイバーン! ーーってもうこんな時間じゃ無いですかっ? そろそろ街に向かわないと門が閉まっちゃいますよ!」
赤目の少女がスケッチブックに落ちた影に頭を上げると、空を滑走する翼竜を見つけて叫ぶ。
初めて見た時は流石は異世界、と驚きと共に見入ってしまったが、ここではワイバーンは空輸に利用されている。地上からでは見えないが翼竜の背には空輸される荷が載っている事だろう。
「なにぼけっとしているんですかっ? クレイはもう準備出来ていますよ!」
「〜〜♪」
「す、すまん」
いそいそとスケッチブックを使い込まれた随分と味の出た鞄に詰め込み俺を急かした。
現実を直視したくなくて惚けていた俺は少女に謝る。
泥人形は既に準備が出来たとばかりに少女の横に背筋を伸ばして立っていた。
ただの土塊のはずなのにそののっぺらした頭にドヤ顔が浮かんでいる気がして非常にイラッとした。
この野郎⋯⋯いつの間に不思議な踊りを止めていやがった!? ただの泥の塊のくせに生意気な。
ここは街から離れた草原。休憩を始めた時には頂点を過ぎたばかりだった太陽も気付けば傾きが増している。ここから薄っすらとしか見えない街に戻るのにのんびりしていたら日が落ちてしまうだろう。急いだ方が良さそうだ。
さっと荷物をまとめて身支度を済ます。
ここはモンスターと共に生きる世界。
なんの因果か分からないが、どうやら俺はこの世界に迷い込んでしまった。
ここでは俺は相棒となるモンスターを育成し、強者が集う大会で勝利し栄光を手にするブリーダーとして生きていかなければいけない。
再び目の前の土塊を見る。
こいつは泥人形。
俺の相棒であり、この世界を生き抜くための唯一の手段だ。
底辺を争う戦闘力の無さと成長性。泥人形を連れているブリーダーは馬鹿にされている。協会に正式に登録されたモンスターは並大抵な事では変更出来ないらしい。
モンスターを鍛えようにも専用の施設はお金がかかる。
腰に下げた今回の成果である小さめな革袋の中には協会に納品する薬草が入っている。
低ランクの常設依頼である薬草の納品で貰える金額だと1日を生きるのにもギリギリだ。今晩の宿代とご飯代になれれば十分だろう。
魔獣の素材は採取と比べると割りの良いのだが、魔獣とは遭遇した端から逃げ出している。
お金を稼ごうにも弱いモンスターでは魔獣に勝てない。
「ーーリセットって出来ないのかなあ」
「⋯⋯? なにか言いました?」
不思議そうに首を傾げる少女に、頭を振って何でもないと遠くに見える街並みに向けて歩き始める。
泥人形は変わらず踊っているように着いてくる。普通には歩けないのだろうか⋯⋯。
これからの事を思うとため息が出そうになる。
これは陽気な泥人形と過ごす異世界のお話。