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エピローグ

ちょっとだけ作品に恋がしたかった

雨は美しい。

音で、水の心地よさで、あの人が好きだった雨は心を洗い流してくれる。

そう言えば、あの人に出会わなければ、こんな考え方しなかった、しようとも思わなかった。しかし、もう会いたくてもあの人には…

…会えない。


あの人に始めて会ったのは6月頃の梅雨前だった気がする。


その日は朝から生憎の曇りだった。僕はまだ学生であったが、思い出と言える思い出は、全然ない程度の生活を日々送っていた。

「お!相変わらずシケたツラしてんなぁ!(りく)!」

少し不良っぽい口調のこいつはハル…佐藤 (はる)だ、コイツとは結構長い付き合いになる。

「ほっとけっ…」



「ふぁ~、ネミィー!!帰ろうぜ陸」

授業も終わり、手で口を覆う仕草で近寄ってくる春、しかし、陸にはまだ少し仕事が残っていた。

「わりぃ…さっき聞いてたと思うけどさ、俺、先生に提出する資料作んないといけないからさ、先にかえってていいぞ?眠いんだろ?」

机に拡げてある紙束を見て、これは中々終わりそうにないな、と思ったらしく、すぐに了解してくれ帰っていった。

大分時間を無駄にしてしまったような気がするが、まだ空は明るい。仕事が終わったのですぐ帰ろうとした。しばらくは雲も薄かったから雨は降らなかったが、歩いていると

…雨だ。

俺の鞄には折り畳み傘が常に入ってるから、雨には濡れないが雨は嫌いだ、ズボンの裾は濡れるし、靴は蒸れるし、晴れの方が好きだ純粋に。

学校へ行く時と帰るときは、近くの公園を僕は良く通る。その時少し遠目に人が見えた。こちらには気付かない。


「あの、何でそんなに…悲しそうなんですか?」

こう声をかけたときから、この人と最後まで居ることが決まったかもしれない。

その人は笑っていたが気を抜いてしまうと泣いてしまいそうな、悲しそうな顔をしていた。こちらに気がつくと後ろを向いてしまったが、

「な、何でそんなことを?」

「何となくですよ。」

彼女は傘はさしていなかった。

「そうね。悲しいことはあったかな…」

雨があがるまでは傘を持っていてもいいかな、と思ってしまった。


彼女は、とても綺麗だと思う。でも、少しだけだから見間違えかもしれなかったけど、左目が青色っていうより『透明』だったんだ。その目を見たときに、一瞬素直に綺麗って感じた


「ねぇ?貴方雨は好き?私は好きなの。嫌なことがあったら雨が心地良いの。何でだろうね。」

彼女から話しかけてくることは無いだろうと、勝手にではあるけど考えていたので少し驚いた。

「えっ?自分と同じとか?慰めてるみたいだとか?良く分からないです。」

「そう…」

彼女は制服を着ているが学生だろうか、長い黒髪が良く似合う紺色の制服。スカートは少し短めで、自分と同じ学校では無いことは直ぐに判る。


結局、雨があがるまで一緒にいた。

「ねぇ?私の目どう思う?」

彼女がまっすぐこちらを向いて聞いてきた。両目が透明なわけではなく、右目は普通に黒でこちらも綺麗であった。

「とても綺麗だと思うけど…」

ちゃんと話したかったが、相手にとって嫌かも知れないと考えてしまい、あまり話せなかった。

「綺麗か…綺麗なんだ…」(ボソッ)


「君、また、明日も会えるかな?」

雲の切れ目から夕日が彼女の顔を照らし、泣いたあとが残っている笑顔を、より鮮明に僕の目に映した。

「えぇ、きっと会えますよ。明日も」



「お…り…!おい!陸?」

「あ?あぁ、何だ?春」

「話聞いて無いのかよ、チェー。もしかして何か昨日あったのかよ?恋か?恋だろ?誰だー?なあなあなあ!教えてくれぇ「うるせえ…」いだだだだ!」

「だいたい何でそう話が恋愛関係にすぐそれんだよ?」

「いいだろ!くっそいってぇ!アイアンクローは反則だろぉ!」

「まぁ、何かはあったな。だから今日は一緒に帰れない」

「じゃあなんかあったら教えてくれよ!」

適当に流して春をあしらう。

学校が終わったら彼女にすぐにでも会いに行きたい。どんな会話をしたらいいだろうか。考えているうちに時間はあっという間に過ぎていく。


昨日と同じ道を通る。公園の昨日彼女と出会ったあの場所を目指す。

「おはよう!少年!」

何故か草むらから声が聞こえた。

「えっ?あ、おはようございます?」

もう昼はとっくに過ぎている。

「いやー他の人とか連れてきたら、こっそり逃げるつもりだったんだけどね!誰も来てないようで何よりだ!」

何か苦い思い出でもあるんだろうか?すごく判りやすい苦笑いだった。今日は晴れていて彼女の顔をまた、別の美しさにしていた。

やっぱり僕は晴れが好きだ、この顔の方が美しい。

今日は制服ではない、わざわざ着替えたのだろうか、私服の効果で少し幼く感じる

「ワンピースタイプってやつでね!出来るだけ白っぽいものを着てみたんだが…似合うかな?」

似合っていた、凄い良い。黒と白がこの人ならではの生かし方とも言える…靴下を右に黒と、左に白で合わせてきている

「わざわざ着替えたんですか?あ!でも、凄く似合ってますよ!」

ちょっと顔が熱い…顔が赤くなっているのがばれているのか、とても満足そうな顔をして笑う。

「あ、忘れてた!私の名前は目黒(めぐろ) (そら)。空って呼んで欲しい!宜しくね♪少年!」

「僕の名前は高崎 陸宜しく…空?」

「うん!」


それから時間が過ぎるのを忘れ話続けた。好きなもの、嫌いなもの、苦手なタイプ、好きなタイプ…

気が付くと夕暮れ、夏場は夜になるのが遅いから今は6時頃だろうか。暗くなる前に、コンビニに寄って弁当買わなきゃいけない。

「ゴメン、そろそろご飯買いにいかなきゃいけないからさ、また明日(あした)にしょうぜ?空?」

「あ…うん!そうだね、時間が過ぎるのは早すぎるな。楽しいと。じゃあまた明日、陸少年。」

また明日その言葉は今はとても重く感じた。明日はもっと重くなるのかな…空はほんの少し悲しそうな顔で見送ってくれた。


「また明日、か」


呟いたその言葉にはもう重さはなかった。



家に帰ってから溜め息ばかり出てくる。弁当は味がしない気がした。自分でも判った一目惚れだったと。空色…水色より少し薄い色。空の親は何を思ってこの名前にしたのだろう、と、考えることは全て昨日に出会ったばかりの空という少女のことだった。

弁当を食べた後も、風呂に入っているときも、ケータイで何かする前も。

また、明日も会えるよね?そんなことを考えてるうちに陸は眠ってしまった。

まだ少しだけ続けたい

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