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前編※ディー視点

 



 ――物心ついた頃から、ボクは母さんや仲間達と人間から逃げていた。


 【精霊狩り】というやつで、ボク達の血肉は人間達にとって薬や呪術の材料になるのだという。だからボク達精霊にとって人間は敵だったし、憎むべき相手でもあった。 



 逃亡生活をいつまでも続けていく訳にもいかず、ボク達は時間を掛けて人間に見つからないよう海域に小さな島を造り、人間には解けない結界を張ってそこで暮らす事になった。



 ただ、逃亡生活や人間の戦争や信仰心の薄れで精霊達の数は徐々に減っていき、最終的にこの世界の精霊は年齢が一番若かったボクだけになってしまった。



 孤独を紛らわすために、島で生き残った動物達と戯れるも……やはり独りだという寂しさは癒せない。



 そんな日々を10年ほど繰り返していった後――ボクは思いがけない存在と出逢う。 



 湖で身体を清めていた際、背後から何者かの気配を感じて後ろを振り返ったら……そこには人間の少女がいた。


 敵意を感じなくてゆっくり近付くと、向こうは何か焦ったようにあたりをウロウロ見ている。



「キミ、どこから来たの? ココは人間は入れないはずなんだけど」


「え? わたし……ねたら、いつのまにかココにいたの」



 ボクの質問に対して少女が答えた言葉に疑問が残るものの……その体に宿る魂の綺麗さに、無意識に目を奪われる。


 逃亡生活の中で見てきた人間達の魂は濁りきったものが多く、ここまで綺麗な魂は生まれて初めて見た。



「へえ……じゃあ迷子かな? でもココに来る人間は初めて見たよ」


「わたし、かえれるかな?ママがしんぱいしてるかもしれない」



 きっとこの子は、この世界の人間じゃないのかもしれない。不安げな様子から、わざとこの場所に来た訳じゃないんだと分かる。



「多分そのうち帰れるんじゃないかな? 君が夢から来たっていうならね」


「ホント?! よかった……あ、わたしココからいなくなったほうがいい? ココきちゃダメなとこなんでしょ?」



 ボクが帰れると伝えただけで少女はかなり喜んだものの、また不安げに眉を下げてこちらをじっと見つめる。



「いや、いて良いよ……それに、君の魂はすごく綺麗だしね」



 そんな顔をさせたくなくて、ボクは肯定の言葉を返す……魂の綺麗なこの少女に、少しずつ惹かれていたのだ。そして少女の名前を知りたくなり、ボクは声を掛けた。



「そういえば、まだ名前聞いてなかったね……ボクはディーニアス、キミは?」


「わたしはみずき! ディーニアスっていいにくいから、ディーってよんでいい?」


「うん、構わないよ……ボク、まだまだみずきとこうして過ごしてたいな」


「わたしも、ディーとまだまだあそびたいっ」 



 名前を教えてもらい、その名を自分が口にすることに無意識に喜びの感情が湧き上がってくる。


 そしてみずきもまた、ボクとまだ一緒に遊びたいと返してくれるから、より一層嬉しくなる。


 それから少しずつ草笛とか色々みずきに教えていると、さっきまではしゃいでいたみずきが突然ピタッと体の動きを止める。どこか遠くを見つめていて、ボクは嫌な予感がした。



「ママがよんでる……いかなきゃ」


「え?みずきまだ此処にいてよ……あともう少しくらいで良いから」


 みずきが居なくなってしまう……その事を悟ると、胸の内がぎゅうっと締め付けられる。この感情はボクが独りになった事を実感した時と同じモノで、みずきに居てほしくて服の裾を掴んでしまう。



「ううん、ダメ! ママおこらせるとコワイの……またくるから、ごめんねディー」



 でもそんなボクの気持ちとは裏腹に、みずきは申し訳なさそうにボクの手をそっと服から外して離れた瞬間――まるで陽炎のように揺らいで、ゆっくりと消えていってしまった。 



 みずきは、ボクの寂しいという感情が見せた幻だったのか……でも、触れた感触や声、そしてあの綺麗な魂はホンモノだった。


 明日も来ると言ってくれていたのだから、それを信じて待ってみよう――今まですぐに過ぎ去っていった一日が、いつもよりも長く感じた。




■□■□■ 




 次の日になり、いつもと同じように湖で待ってみると――背後からまた気配を感じる。


 後ろを振り返ると、そこにはみずきの姿が見えて……ボクは嬉しさのあまり駆け寄って、小さな身体を抱き締めた。



「みずき! 良かった……また来てくれたんだね」



 感じる温もり確かなモノで、みずきは幻じゃないんだということを実感させてくれる。



「うん、やくそくはまもらなきゃダメってセンセーいってたもんっ」



 



 ボクが抱き締めた後みずきは何故か慌てて、よく分からない事を言ってそれがなんだかおかしかった。でも、約束という言葉は知っている……ボク達精霊の間でも使われる言葉だから。



「ふふっ、そうだね……約束は守らなきゃいけないことだもんね」 




 約束を破る事はボク達精霊には命に関わる場合もあるから、約束の大事さは人間もきっと同じなんだろう。



 また昨日と変わらず色々森の中で遊んで、陽が落ちてくるとみずきはまた居なくなってしまう……けれど、次の日にはまた遊びに来てくれるから、徐々に毎日が楽しいモノになっていった。 



 そんな日々が暫く続いたある日、ボクはみずきから言われた言葉に驚きと嬉しさが隠せなかった。



「ねえねえ! ディーはわたしのことスキ?」



 無邪気な笑顔で問い掛けるみずきの可愛さは、何ものにも例えられないくらいで自然と口元が緩んでしまう。



「うん、大好きだよ……ずっと一緒に居たいって思ってるからね」


「ホント?! わたしたちりょうおもいだね!」



 ボクの返答に対して更に嬉しそうに語るみずき……みずきがずっとボクと一緒に居てくれたら良いのに。



「ふふ、そうだね……じゃあ、結婚しちゃう? ボクたち」


「したいけど、おっきくならないとできないって、ママがいってた」



 人間の世界では夫婦になる為には結婚というものをしなければいけないのだと、前遊んでた際みずきに聞いたのでそのことを提案するとみずきはしゅんとした顔をする。


 大きくならないとか……でも、みずきが大きくなるのをボクは待てる。人間はあっという間に成長するしね。



「そうなんだ……じゃあ結婚の約束しようよ、お互い大きくなった時にできるように」 



 ボクの提案に対してキラキラと瞳を輝かせて、みずきが何度も頷いてくれる。そのことに嬉しさを感じながら、みずきの額に指先を当てがい小さく【契約】の呪文を唱えつつゆっくりと雫の紋様を描く。


 これはボクとみずきを結ぶ大切な印であり、その契約内容を破ることは許されない。今のみずきには分からないかもしれないけど……万が一を考慮しての契約だ。



 みずきがもし此処に来ない事があったとしても、大きくなったらいずれボクの元に帰ってくるようにと。



「コレは約束の印だよ……みずきがボクと結婚するためのね」


「そうなんだ! ありがとうディーっ」 



 嬉しそうにボクに抱き付くみずきに驚くも、みずきから抱き締められたことが嬉しくてボクからも抱き返す。



 ああ幸せだと感じるけど、一抹の不安が拭えない……みずきがいつか、此処に来てくれなくなるんじゃないかって。



 そんなボクの不安が的中してしまうなんて――この時のボクは知る由も無かった。



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