缶詰ロシアンルーレットのススメ
「それでは、これより缶詰ロシアンルーレットを開始する。」
机の向かい側に居るリーダーが厳かにそう告げた瞬間、この場に居る全員に緊張が走った。
今回の探索に参加した冒険者はボクを含めて4名、いずれも人生の刺激を求めてダンジョンに挑んでいる正真正銘の勇者たちである。
今回のお宝は見てのとおり、山積みになった円筒形の缶詰がランタンの光を浴びて鈍く光る。
ちなみにラベルなんて甘えた物は一切ない、剥き出しの銀色が隠す中身は神か悪魔か…。
「ルールはスタンダード?」
今発言した女性の名はクララ…ちなみに今回のパーティにおける女性はボクと彼女の2名である、こんな狂ったゲームに参加している割に、彼女はかなりマトモな性格をしている…と思う。
「もちろん、順番に缶を開けて中身を貰える、死んだら終了、最後まで生き残ったやつは開けてない缶を総取りできる、そして今回は特別ルールを用意した。」
「特別ルール?」
警戒気味にそう尋ねる彼の名はバジス、自信家で派手好きだが少し警戒心が高い…ビビりな所が玉に瑕な男性である。
「特別ルール…【分類:食品】が出たら絶対食べる事。」
「ゲッ…」
とボクが思わず出した妙な声を遮るように
「お…おい、それは流石に…
「あら、ビビりのバシスちゃんは怖くなっちゃった?今なら尻尾巻いて逃げてもいいのよ?」
「ハァ?ざっけんなよクララ、俺がいつ逃げたってんだよ。」
「じゃぁ賭ける?先にゲロった方が相手の命令を何でも1個聞くとか。」
「受けて立つぜ、てめーにはぜってー負けねー。」
あー…今更、辞退とか絶対無理だよこれ
というかクララさんって【悪食】持ってるから絶対勝てないと思うんだけど…。
「それじゃ、僭越ながらリーダーのおいらからやらせてもらうよ。」
こうして地獄のゲームが幕を開けた…。
***
「フフン、フーン。」
キリキリキリキリ。
アンティークな缶切りで缶を開けるリーダー
缶が開いていく姿をジト目で見るバジス
そんなバジスを面白そうに眺めるクララさん
「オープンセサミ~!」
パカッ♪
…あ、良い匂い。
中身を鑑定したバジスが答える「魚肉のミートボールだな。」
「おぉ…普通に美味い、久々のマトモな食事だよ。」
そういえば日常を知らないんだけど、リーダーって普段はどんな食生活してるんだろう。
「次、アタシが行くわ。」
次はクララさんがやるらしい。
キリキリキリキリ…パカッ♪
「・・・布?」
不用心に手を突っ込んで中身を引っ張り出すクララさん。
真剣に鑑定するバジス。
「クララは、女性用のブラジャーを入手した。しかしクララでは微妙に乳が足りないサイズで グボァッ。」
「余計な事は言わなくて宜しい。」
「【鑑定】クララは、なんでも暴力で解決するから乳が大きくならな グボァッ。」
「あ、次はボクちゃんが開けていいわよ?」
何でバジスがクララさんの胸のサイズを正確に知っているのかとか、疑問は大量にあったけど
クララさんの目が泥沼みたいに濁った色だったので速やかに缶詰を開ける作業に入る。
キリキリキリ…パカッ♪
「【鑑定】…オートボウの弾だな、つまんね。」
「じゃぁ、貴方が面白い物でも出せば?」
キリキリキリ…パカッ♪
開けた缶詰の中身を見てバジスが黙り込む。
「あら・・・お肉?」
「あぁ…これはやっちまったな。」
クララさんが不思議そうに缶詰の中身を見て、
リーダーが面白そうに笑う。
そしてバジスが絞り出すように告げる。
「餌だ…。」
え?
「これは、ワガママグルメ・肉食用、分類は食品…ペットの餌だ。」
え・・・さ?
ボクが彼の言葉を理解した時点で、バジスは既にスプーンを突っ込み、中身をむさぼり始めていた。
「ちょ…ちょっとバジス、何を。」
「勝負は”ゲロった方が負け”俺は負けてない。」
「そんなの食べたらお腹壊すわよ。」
慌てて止めようとするクララさんをリーダーが止める。
「大丈夫だよクララ、コレは人間でも食べられるように調整されてるし、君が決めた通りバジスはまだ負けてない。」
「完食ッ…リーダー、やれよ。」
リーダーがキリキリキリと素早く缶切りを走らせる。
「フフン、やるじゃないかバジス…それでこそ男の
リーダーがカッコイイ事言おうとした瞬間、缶詰が爆発した
「【鑑定】・・・爆発トラップだな。」
「見ればわかります。」
「もしもーし、リーダー?…あ、死んだ。」
ズタズタの死体が消滅する、再生成は12時間後ですね、お疲れ様ですリーダー。
***
「ルールの変更を要求する、ここからは三人同時に開けるようにしたい。」
「「異議なし。」」
1人死んだ程度で退くような温い生活はお互いに送っていないが
開ける順番で運よく勝利というのは面白くない。
ボク達の心は今一つになっていた。
サドンデス開始
キリキリキリキリ…パカッ♪(×3)
クララ:芋虫っぽい何かの煮物
バジス:芋虫っぽい何かの煮物
わたし:非常用と書かれたクッキー
「あ、意外と美味しいわよコレ、ビビりのバジスちゃんは食べないの?」
「お前、舌と脳ミソ腐ってんじゃねぇの?」
「わー、マトモに食べられる食事だぁ…。」
キリキリキリキリ…パカッ(×3)
クララ:精密機械の予備部品
バジス:ワガママグルメ・肉食用 (おかわり)
わたし:トカゲ肉の串焼き風
「臨時収入げっとぉ~♪」
「カミサァーッ、もう二度と食事で遊ばないって誓うんでペットの餌はもう勘弁してください。」
「何の肉かと思ったけど、トカゲって意外と美味しいわね。」
キリキリキリキリ…パカッ♪
バジス:白っぽい肉のような何か
クララ:根菜のスープ
わたし:ネジがいっぱい詰まってる
「ふふっ、これか…なぁ、これって何だと思う?」
「…え?」
「生まれた年は大差ないのにな、コレを知らないお前がうらやましいよ。」
「バジス…。」
「分かったよ、俺の負けだ。」
「いいえ、アタシも食べないから引き分けね。そういう訳だからボクちゃん、おめでとう。」
「え…え…?」
「一応忠告しとく、こういう白っぽい肉の缶詰が出ても絶対に食べずに捨てろ。」
「毒じゃないんだけどね、捨てた方がいいと思うわ。」
席を立つ二人、取り残されるボク。
何だったんだろう…ってバジスは開けた缶詰捨ててるし
クララさんも食べずに置いて行ってるし、勿体ない。
…えっと、もっと爆発したり刺激的なゲームになると思ったんだけど
妙な雰囲気で終わってしまってボクはとっても消化不良です。
ストレージに缶詰を仕舞いながら、不意に思い付いて一つだけ缶詰を残す。
折角だし、もう一個開けてみるか。
キリキリキリ・・・カチッ!
わたし:大爆発トラップ
爆風を浴びて吹っ飛びながら
結局爆発オチかよ、と思いつつもボクの意識は閉ざされた…
おわれ