表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/46

第四十一話 竜炎乱舞

 アサルトワームに連れられて螺旋階段を上り終えた俺たち。

 ペッと吐き出されるように三層に到着し、ワームの大群は去っていった。


「みんなー、ハコヤたちを運んでくれてありがとー」

「エロン……君が原因だったのか……」

「え? だってみんな遅いから、この木を通じて地下にいたアサルトワームを刺激したのー。二層から出られないみたいだから、これ以上は追ってこないよー」


 勘弁してくれ。

 なんにせよ、どっと疲れた。


「エロン? ……この世にはやっていいことと悪いことがあるのよ!」

「うわ、痛いよう〜。私はいい子だってばー!」


 エレナが体を震わせながら立ち上がり、エロンの頭を拳でグリグリする。

 どう見ても子供をたしなめる母親だ。


「口答えするだなんていい度胸ね!」

「ご、ごめんなさい〜! わ〜ん!」


 相当ご立腹の様子らしいエレナと、涙目のエロン。

 二人を放っておき、新たな層の様子を観察する。

 二層の森とは打って変わり、石の壁に松明、という一層に似た形に戻っている。

 一層と違う点は、通路がやけに幅広いことだ。

 通路は一直線に続いており、天井も高い。


「タクト、三層について教えてくれないか?」

「えっとね、この層は道が一直線に続いてるんだ。途中でいくつか扉で仕切られた部屋があって、強力な魔物が中にいるみたい」


 目をこらすと、遠くに扉があるのがわかった。

 ゲームでいうボスラッシュというやつか。


「なるほど、道に迷うことはないが、敵を避けて通れないというわけか」

「いや、避けて通るのが普通だよ」

「……何だそれ?」

「長い通路を駆け抜けて、次の扉をくぐれば魔物は追ってこない。でも、そこには次の魔物が待ってるんだけどね」


 散々階段で走らされて、また走るのかよ。

 それも次の層まで休憩なしときた。


「なら、今のうちに休憩しておくべきね。そろそろ正午だし、お昼にしましょう」


 エレナの提案により、昼食をとることになった。

 外とは隔離され、時間の感覚が狂う迷宮の内部だが、ステータスの時計機能がそれを解決してくれる。

 俺もステータス画面くらい見れるようになってもいいと思うんだが。

 目の前に手をかざし、


「ステータス」

「ハコヤー、ご飯まだ〜?」

「あ、うん」


 突き出したままの手に、エロンが箱を押し付ける。

 俺は手早く四人分の食事を用意し、食べ始めた。


「そろそろパンも飽きてきたわね」

「えー、でも美味しいよ?」

「こ、これ……何これ……?」


 三者三様の反応であるが、タクトの反応が印象的だった。

 彼はひとかじりすると、パンを手放して目を見開く。

 膝に落ちたパンを拾い、もうひとかじりして再び落とす様子がシュールだった。


「どうしたんだタクト?」

「いや、なんだかほっぺたが落ちそうで気持ち悪いんだ」

「…………」


 ほっぺたが落ちそうで気持ち悪い、とは。

 褒め言葉として受け取っていいのか?


「ならこれでも食っとけ。森でつまんだ雑草だ」

「え、いいの? ありがとう!」


 エレナが哀れむような目でタクトを見ているが、人の嗜好も多種多様。

 体にいい雑草ばかりを選んだので、問題はあるまい。


 しばらくして全員が食べ終え、攻略を再開する。

 威圧的な鉄の扉の前に立つと、扉は耳障りな音を立てながらひとりでに開いた。

 緊張したまま中を覗き込むと、皆は顔を引きつらせた。


「レッドドラゴン……」


 俺が呟くと同時。

 ドラゴンは赤い体躯をこちらに向け、首をもたげて軽く炎を吐いた。

 忘れるはずがない、あれはD級魔物、レッドドラゴン。

 巨大で、空を飛び、炎を吐き、防御力も高い。

 攻防備えた、純粋な強さを象徴する魔物だ。

 生まれて初めて収納した魔物でもある。


「私、炎苦手なの〜。木の精霊だから〜」

「俺は大好きだ。ドラゴンの炎は焼肉などに使える」

「あなたくらいよそんなこと言うの」


 調理器具や松明がない頃、あいつの炎は火種として最高だった。

 収納と召喚を繰り返して地面に叩きつけたりして、懐かしいな。


「エレナ、箱使ってもいいか?」

「だ、ダメよ、それじゃつまらないじゃない。死んでも大丈夫なのだし、この迷宮くらい箱なしで攻略して見せなさい」

「いいだろう、ここは俺に任せて先に行け」


 一歩前に出る俺。

 何度も対面し、遊んでやった相手だ。


「ふっ、負ける気がしないな」

「どこから来るのよその自信は……」


 呆れたエレナと怯えたエロン、そして何かを言いたそうにしているタクト。


「あの、やっぱり一緒に戦った方がいいんじゃないかな」

「タクト、敵はこいつだけじゃないんだ。あと何匹かやり過ごす必要がある。俺が足止めしている間に、足が遅いエロンとエレナをエスコートしてくれ」

「で、でも」

「後で必ず合流する。早く行け!」


 無性にカッコつけてみたい気分だった。

 別にトチ狂ったわけではなく、勝機はある。

 レッドドラゴンの攻撃パターンは把握済みで、大振りで隙のある攻撃が多い。

 バリアという保険のある俺が引き受けた方がパーティーの生存率は上がるのだ。

 万一負けそうになった場合は逃げればいい。

 バリアが残り一回という状況になったら、タクトを追いかけよう。


 タクトたちが駆け出した。

 追おうとするドラゴンの気を引きつけるべく、俺はすぐさま間合いを詰める。


「薄切り!」


 抜刀した流星の双剣(ツインメテオ)でドラゴンの足を切り裂いた。

 剣はすんなりと鱗に食い込み、ハムを薄く切るように切り口を入れる。

 剣の長さからしてドラゴンの太い足を切り取るのは難しいが、大きな傷であることに変わりはない。


「ガアァァァァァン‼︎」


 悲鳴をあげたドラゴンは、左足から血を流しながら飛び上がる。

 何度か旋回したのち、怒りの形相で急降下してきた。

 あの口の動き、火を吐くのだろう。

 剣を警戒し、ある程度距離をとって攻撃するつもりらしい。

 微かな光がドラゴンの口から漏れた瞬間、俺は右に大きく飛び、転がる。

 直後、背中に熱風が吹くのを感じた。

 

「熱っ……だが、隙だらけだ」


 ドラゴンが着地し、口の向きを変えようとするが、俺はあえて炎をくぐり抜けて間合いを詰める。

 敵の姿を見失ったドラゴンは闇雲に炎をばらまくが、灯台下暗しとはこのことか。


「千切りの舞」


 双剣を水平に構え、円を描くように回転しながらドラゴンの腹を何度も切りつける。

 ドラゴンの防御力を持ってしても、流星の双剣(ツインメテオ)の前では大根よりも柔らかい。

 相手が気付いた時には、腹は百枚に捌かれていた。

 声も出ない様子のまま、ドラゴンはあっさりと消え失せる。


「やれやれ、包丁でドラゴンスレイヤーの仲間入りを果たしてしまうとは」


 どうやら、動きの遅い魔物は流星の双剣(ツインメテオ)にとって格好の餌らしい。

 人間で例えるなら、重い鎧を着込んでいるほど、逆に倒しやすいということだ。

 反して、身軽な服装で回避を得意とする相手は大の苦手というわけである。

 にしてもこの包丁、切れ味が良すぎはしないか?


「とりあえず、タクトたちを追うか」


 今から走れば追いつくかもしれない。

 小さな足音を広く高い通路に響かせながら、俺は足を早めた。



****



「ハコヤ、大丈夫かな」

「つべこべ言わずに走りなさい」


 時々後ろを振り返りながら走るタクトを、エレナが急かす。

 四層のD級魔物は、下手したら五層の魔物よりも強いことがある。

 逃げることを前提とした層なのだ。


「ねーねー、あそこに何かあるよ〜」

「エロン? 何があるのよ」


 右側の壁を指差したエロンに、エレナが問う。

 一見、何の変哲も無い壁に見えたのだが、エロンが近づくと何かが浮かび上がってきた。


「ほら〜、何かある〜」

「何よこれ。魔法陣かしら?」

「僕が解読してみるよ」


 タクトが魔法陣を隅々まで観察する。

 人の背丈と同じほどの大きさで、白く輝いている。


「これは、少し変わった転移魔法陣だね。一方通行で、起動して数秒後に発動する仕組みみたい」

「数秒後って……もう発動するんじゃないかしら?」

「そ、そうだ、早く逃げないと! しまっ――」


 タクトが叫んだ瞬間、光の奔流が三人を包み込む。



****

 


 タクトたちを追いかけて数分、俺は次の扉にたどり着いた。


「おかしいな。先に進んだのか?」


 確かに先に行けとはいったが、せめて扉の前で待ってくれてもいいだろうに。

 あとで文句をいってやろう。

 少し寂しくなったのはさておき、思い扉が軋みながら開く。

 その先には、水色のドラゴンが鎮座していた。

 D級魔物、スカイドラゴン。

 危険を察知すると飛んで逃げ出す、非常に面倒臭い魔物である。

 苦労して追い払っても、ドロップも経験値も置いていかないため、冒険者から恐れられている。

 別の意味でだ。


「まさか、全滅したのか……?」


 ありえる。

 仮にもD級魔物、タクトたちが勝てるとは限らない。

 俺一人、取り残されたというわけか。

 死亡フラグを立てていながら、皮肉なものだ。

 なら、命を顧みずに行けるところまで行くまでだ。

 攻撃は最大の防御。


 スカイドラゴンは、相手の大きさで敵の強さを測る傾向がある。

 魔物に比べてかなり小さい人間なら、相手はほぼ確実に油断するだろう。

 裏を返せば、勝機は油断している時にのみあるといっていい。

 初めの一撃でいかに致命傷を与えられるかが肝心だ。

 俺はゆっくりと走り出し、それを全速力に見せかける。

 ある程度距離が縮んだ瞬間、地面を蹴って一気に懐に潜り込む。


「角切り!」


 垂直に交差する複数の剣筋。

 スカイドラゴンは四角い肉となって崩れ落ち、消滅した。

 勝利の余韻に浸っても良かったが、エレナたちを長い間待たせたくない。

 いつか死ぬだろうと敵が強いことに期待しつつ、俺は先に進むことにする。


 アースドラゴン、ポイズンドラゴン、そして新種の透明なドラゴン。

 順調に倒していきながら、次の扉が開かれる。

 奥にいたのはE級魔物のメタルドラゴン。

 圧倒的な物理防御を誇り、D級以下の魔法は完全に無効化してしまうという、難攻不落の魔物。

 さらに鋼の体を利用した重い攻撃が、うかつに近づけさせてくれないのだ。

 翼があっても空は飛べず、足が遅いために『出会ったら逃げる』が冒険者の鉄則である。


「ひょっとしたら、包丁で切れない相手を見つけてしまったかもしれない」


 メタルドラゴンに駆け寄り、飛び上がって首元を狙う。

 ……切れた。

 顔を蹴って離れ、着地しながら様子を伺うと、メタルドラゴンはあっけなく消滅する。

 防御力が高い分、HPが少なめとかいう設定なのだろうか。

 運がいいのか悪いのか、ドロップアイテムが落ちていたので拾う。

 虹色のオーラを放つ金属で、この大きさにしては意外と軽い。

 腰に下げていた袋に突っ込み、鉱物コレクションに加えることにした。


 気を取り直して進み、しばらくして扉が見えてくる。

 以前の扉とは違い、金色の装飾があしらわれており、なかなか豪華だ。

 ただそれは、何かすごいものが待ち構えているサインだと俺は思う。


「宝物庫だったらいいな。あるいは次の層への階段か」


希望的観測であるのはさておき、ぬぐい切れない嫌な予感が引き返せと告げている。

 そんなことを知ってかしらずか、扉は音を開いた。

 そこには天井に届きそうな大きさの古代竜と――。

 クリーム色の髪をした少女、ミリー・ブラックネルが戦っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ