表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/46

第三話 峡谷収納

 邪神も収納したことだし、そろそろご飯にしたいな。

 あ、食料の場所を聞きそびれた。幼女を召喚し直そうか。

 でも、相手が魔法を放つ瞬間に収納したからな。

 うっかり下僕にされたら元も子もない。


 ということで城内を探ってみた。

 二階、三階、屋根裏、地下室、全部調べた。

 邪神以外に誰もいなかったらしく、ホコリが積もるのも無理はない。

 金目のものは全て収納したが、食べれそうなものは何もなかった。


 一旦、邪神がいた『謁見の間』らしき場所に戻り、絨毯に戦利品の一部を並べていく。

 本棚、壺、王座、シャンデリア、テーブル、箒、扉、絵画、パイプオルガン。

 何度見ても、一向に食欲をそそらない物体たちだ。


 なら、邪神は何を食べていんだ?

 神なので餓死しなかったり、魔力を糧にしていたりするのだろうか。

 あいにく、俺は魔力の食べ方なんて知らない。

 そもそも魔力が何か知らない。


 本にヒントが書いてあるかもしれないので、本棚からそれっぽいものを探す。

 普通に日本語で書かれており、安心した。

 とりあえず、すべての本棚に目を通した。


『勇者の倒し方』

『邪神プラナの復活日記』

『勇者が可愛くて倒せない件について1〜1460巻』

『ワシでもわかる上級魔法』


 期待した俺が馬鹿だった。

 五つある本棚のうち、四つが得体の知れないライトノベルで埋め尽くされていたのだ。

 まともに使えそうなのは、『ワシでもわかる上級魔法』くらいだろうか。

 食料を確保でき次第、読んでみよう。


 全てを収納し、城から出る。こんなところにいても、腹は膨れない。

 心なしか、空が暗くなった気がする。日没が近いのだろう。

 にしても邪神、何にも持ってなかったな。

 服くらいはあると思ったんだが、クローゼットが見つからない。

 学ランは一着しかないので、汚れでもしたらテーブル掛けやカーペットを羽織るしかなかろう。


 崖のそばに立ち、暗い峡谷を見渡す。

 そうだ、岩みたいに大きな物質は収納できるのだろうか。

 俺はキャベツ箱を構え、遠くにある崖の一つに大きな球をイメージする。


「収納」


 ドドドドドド……!!


 ぽっかり穴が空いたと思うと、支えを失った上層が崩れ落ちた。

 大量のダイナマイトを一気に爆破したら、こういう光景になるのだろうか。

 収納リストには、くりぬかれた部分がきちんと表示されている。

 ものすごい大きさなんだが……アイテムボックスって怖いな。


『レベルアップしました』


 何かが聞こえてきた。空耳だろうか。

 いや、現実から目をそらすな。

 今の崖崩れで、罪のない生物が生き埋めにされたのだ。


 もし人が死んでいたらどうしよう。

 とはいえ、こんなところに来る物好きはいないだろう。

 それに、この世界の人類が善良だと決まったわけじゃないからな。

 モンスターの方が迫害されているという可能性もある。


 冗談だ。反省はしている。

 それより驚いたのは、俺が未だ冷静であることだ。

 多少の罪悪感は感じたが、恐怖も動揺もしなかった。

 このままでは不謹慎なので、心の中で祈りを捧げる。

 俺は、生きる資格のある人間なのだろうか。


 まあ、死ぬ覚悟はできている。

 このゲームのような世界で、最期まで足掻くつもりだ。

 さっきから、暗いことしか考えていないな。

 早くこの峡谷から抜け出そう。

 その前に、この城を持ち運べるか試したい。


「収納」


 ビュオォォォォ……


 案の定、邪神の城は一瞬にして消え失せた。

 真空を埋めるように風が吹きすさみ、俺のカラスのように黒い髪をはためかせる。

 よく考えたら、頭から靴まで真っ黒だ。

 暗闇に紛れて都合がいい。


 気を取り直し、谷を見据える。

 いい加減眺めるのも飽きてきたな。

 まっすぐ進みたいところだが、この崖を下る勇気を持ち合わせてなどいない。

 だが、俺には箱がある。


「収納、収納、収納、収納……」


 足元に大きめの四角形をイメージし、少しずつ地面を削っていく。

 その度に俺は下降し、安全に谷底までたどり着けるというわけだ。

 途中、体が少し頑丈になっていることに気づく。

 削る量を増やし、そこそこ高い位置から落下しても痛くない。

 レベルアップの恩恵だろうか。


 この調子でどんどん降りていくが、深くなるほど周囲が暗くなった。

 空にはドラゴンがいたし、他のモンスターも谷に生息しているかもしれない。

 視界が悪い状況で、暗闇に適応した生物に襲われでもしたら大変だ。

 なので、目の前の峡谷全体を収納してみよう。


 いや、早まるな。城を収納した時の風を思い出せ。

 物体を収納した時に真空が生まれるらしく、それを埋めるために周囲の空気が吸われる。

 巨大な物ほど風が強くなり、この峡谷を収納すればどうなるかわからない。

 俺は念のために塹壕のようなものを掘った。

 箱と体を岩の中に埋め、顔だけを覗かせる。


「一気に収納ーー」


 ゴォォォォォォォォォォ!!!!!


 想像以上の暴風だった。思わず穴に潜ってしまう。

 感情表現に乏しい俺でも、思わずあんぐりとしてしまうほどだ。


『レベルアップしました』


 ここでまたレベルアップ。

 おそらく、この嵐に巻き込まれたのだろう。

 もし体を埋めていなければ、俺も真空に吸い込まれて死んでいたかもしれない。

 風が弱まったので、そっと頭を出して確かめる。


「おぉ……」


 まず目に入ったのは、風を受けて散り散りになった雲と、暗くなった空。

 視界を遮るものがなくなり、沈みかけている夕日が見えるようになった。


 二つ目に驚いたのは、遠くで回転する巨大竜巻。

 雲は散ったはずなのに、風圧で地盤が削られ、渦が可視化している。

 幸いこっちには向かって来ておらず、反対である夕日の方向に進んでいった。


 何はともあれ、視界がだいぶ良くなり、襲われる心配も減った。

 少し前まで峡谷だった場所は、どこまでも真っ平らな面と化していた。


「精密収納」


 俺はふざけ半分で大地を掘り、巨大な絵のようなものを作る。

 ナスカの地上絵みたいに、邪神幼女の顔を似せて描いてやった。

 人類が気球の開発に成功した暁には、この『萌えイラスト』に驚愕することだろう。

 いや、ドラゴンに乗って飛ぶ竜騎士が先に目撃するだろうか。


 今思えば、非常にくだらないことをした。

 さっさと地面を削り、数分かけて底に着地する。


「さて、どこかに食料は……」


 見渡す限りの平地で、食料などあるはずもなく。

 空っぽのダンボール箱を見つめながら、俺は途方に暮れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ