プロローグ 『未知』
状況がつかめない。
なぜ俺はこんなところにいる。
いきなり異世界どうたらとかいう話を大雑把に説明された後、アビリティと呼ばれる能力を分け与えるという話をされた。
そのアビリティとやらは、察するに超能力的ななにかだろう。各個人の素質によってアビリティは変わるとも言っていたので間違いはないはずだ。
とりあえず、いきなりすぎて訳が分からない。いまだ頭の中は混乱しているというのに受付女性の説明は止まらない。
大勢集められたようでがやがやとしていて煩わしく感じる。
微かに聞き取れたのは『殺し合い』という物騒な言葉。
「お前には悪いが、俺も死にたくないんだ……!」
隣で同じ説明を受けていた若い男は、手に発現したクネクネと折れ曲がっている奇妙な形の剣を振りかざす。あの剣がアビリティというものなのだろうか。
あぁ、クソ。
意外にも冷静な頭でそう考えた。俺は今からあの剣で切り裂かれて死ぬ。
脚もとっさのことでまるで彫刻にでもなったかのように固まってしまい、動かない。
死を悟った俺は、軽く目を閉じる。
『UNKNOWN』
まぶたの裏に突然、それは浮かび上がった。
その瞬間ーー
バタンッ!
人が倒れたような、大きな音が近くから聞こえた。
目の前に、先ほどの男が沈んでいる。
血は出ていない。だが分かる。
この男は死んだ。
恐らく、俺のアビリティというやつで。
周りを見渡す。
「なんなんだよ、これ……」
呆然と立ち尽くす高坂 祈の周りには
たくさんの人間だったモノが倒れていた。