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「あーそうだね。……ヴィーが最後に外出したのっていつだっけ?」
「そんなことは別にいいだろう。それより、シド。お前は何が言いたい」
ヴァリアスに問われ、シドは頭を上げ、硬い表情で自分の考えを話した。
「あの、もしかしたら、ですが。本当に侵入している人がいるのではないですか?」
「……………」
「………まあ、この屋敷だからね」
カルヴィアスはなにやら納得したような答えを返した。
「え? それだけですか?」
逆にシドは驚きの声を上げる。そんな、シドにカルヴィアスは苦笑した。
「いや。ヴィーがこの屋敷に住んで、もう3年? だっけ。その間に幽霊探検で侵入している人十数人もいるから、ついね。しかも、その殆どが一階で引き返しているから、ヴィーと会ったことのある人っていないんじゃないかな?」
ねえ、ヴィー、と話を振られた屋敷の主は記憶を思い出そうとしているのか、天井を眺めてから、ややあって口を開く。
「……いや、一人いた。そこの廊下であった人間が。……私を幽霊と間違えて悲鳴を上げて勝手に帰っていたがな。もう、二年ほど前のことだ」
「あれ? そうだったかな? まあ、そんな訳で、つい危機感が薄いんだよねー」
二人の話を聞いてシドは思わず、それもそうか、と頷きそうになった。
「そうですか。……って、あれ? でも、今回は何度もっていってましたよね? それは今までと違って、幽霊目的じゃなくて、不法占拠とかの線はないですか?」
シドの言葉にカルヴィアスは目を瞬かせた。
「……ああ、確かに、なんども目撃されているみたいだね。まあ、その目撃のどれほどがシド君かはわからないんだけど……そうか、不法占拠か。この屋敷一見すると人は住んでないし、人がほとんど近づかないから、勝手に住むにはもってこいだったね。いや、幽霊屋敷の印象が強くて、そういう普通? っていうのかな、そんな考えは思いつかなかったや」
「はは。普通ですか……。普通って難しいですね」
カルヴィアスの言葉にシドはしみじみと呟いた。
シドの考えに、カルヴィアスは暫く腕を組んで考えるような仕草をしていたが、やがて、にこりといい表情で笑った。
「よしっ! じゃあ、我々三人で屋敷内を一度捜索してみよう!」
「え?」
「は?」
ぐっと拳を握って天に突き上げるカルヴィアスに、唐突過ぎてシドとヴァリアスはきょとんとする。
「うん? ノリが悪いな、二人とも。ほら、侵入者が居ないか探索するんだよ」
カルヴィアスの言葉に、シドは瞬き、意味を理解する。
「ええ?」
驚きの声をあげ、カルヴィアスの突然の思いつきにシドが反応を返せないでいると、ヴァリアスが深くため息をついた。
「…………いって来ればいい」
「なに言ってるんだい? ヴィーも一緒に行くんだよ。だって、君、自分の屋敷なのにどこに何があるか、知らないんじゃない?」
「………」
痛いところを突かれたのか、ヴァリアスは無言でカルヴィアスの言葉をかわす。
シドはこれは、どうやら付き合わなければならなそうだ、とこっそり苦笑した。
「あれ? でも、ヴァリアス様って三年くらいは住んでいるんですよね? 部屋数とかは知っているのでは?」
シドの素朴な疑問に、カルヴィアスは、ちっちっ、と人差し指を立てて左右に振る。
「甘いよ。シド君。ヴィーは出不精だよ? この書斎と日用品が運び込まれる調理場、そこへ行く廊下くらいしか知らないと私は思うね。………どうかな、ヴィー。私の推理は?」
ふふん、と鼻高々に語るカルヴィアスにヴァリアスは苦虫を潰した様な表情になった。
「……………なにが推理だ。……いいだろう。私も付き合ってやる」
舌打ちして、嫌々であることが丸わかりな顔で、ヴァリアスはゆっくりと椅子から立ち上がった。
「よしよし。そうこないと。じゃあ、シド君案内よろしくね」
話を振られ、シドは慌てて自分を指差す。
「え? 僕ですか?」
「……そうだよ? 多分、私たちの中で一番この屋敷に詳しいだろう?」
当然のことを、といった表情で返すカルヴィアスに、シドは自分はこの中で一番新参者のはずなのに、といった気持ちを込めて恐る恐る質問する。
「………え? でも、カルヴィアス様もよくこの屋敷にいらっしゃっているんですよね?」
「……うん? 私もヴィーと同じくらいしか、この屋敷は知らないよ? なにせ、ヴィーの領域は何が起こるか分からないから、必要最低限ですませていたしね。だから、殆どの部屋はどうなっているか知らないよ」
「そうですか……。あの、僕もまだ全てを把握しては居ないんですが……」
「そうなのかい? ………なら、シド君があまり行った事の無い部屋を中心に見て回ればいいのかな?」
「え? そうなんですか?」
一瞬なぜその結論に至ったのか、理解できなかったシドは特に何も考えずに小首を傾げて言う。すると、カルヴィアスは苦笑して教えてくれた。
「そうだよ。だって、掃除している部屋に不法侵入者はいなかったんだろう?」
言われて、シドははっとした。
確かに、自分が掃除していて不法侵入者に出会ったことはなかった。つまりはシドがまだ手付かずの場所にいる可能性が高い。
ちょっと考えれば思いつくはずなのに、どうやら頭が働いていないようだ。どうやら、王子やヴァリアスとこんなに長く話して、知らずに緊張していたみたいだ。
シドは簡単なことも思いつかなかった自身に顔が熱くなるのを感じながら、頬をかいた。
「そ、それもそうですね。すみません、変な質問をして」
「ふふ。気にしなくていいよ」
カルヴィアスは微笑して軽く返した。
「それで、どこから見るつもりだ」
二人の話に興味がないのか、ヴァリアスは机の前に立ち、腕を組んで二の腕を指で叩いて苛立ちを言外に伝えていた。
その言葉に過剰とも言えるような反応を示したのはカルヴィアスだ。
「もう。ヴィーは浪漫に対する情緒がないよ。ここは、そうっ! 私がこう、華麗に『さて……』なんて言ってみたりして探検に行くのが浪漫だろ。なんで、そんなにあっさりなんだ!」
「……それで、どこから見るつもりだ」
カルヴィアスの話を無かった事にしたいのか、ヴァリアスは同じことをもう一度言う。
シドは、どう切り替えしたらいいのか、一寸迷ったが、主人であるヴァリアスの質問に答える方がいいだろう、と判断し、シドもまたカルヴィアスの浪漫を聞かなかったことにして、答えを返した。
「……………二階は書斎付近しか知りません。一階は玄関ホールから調理場の棟は一応軽く確認したことがあるので、それ以外かと」
「そうか……」
話を進める主従に、天を仰ぎ、胸の辺りを両手で押さえて目を細めうっとりしていたカルヴィアスはすぐ正気に返った。
「もう。なんで、私の話を聞いてくれないんだい。今から浪漫についていい話しをしようとしたのに!」
「……行くか」
「えーと。お供します?」
一人で怒っているカルヴィアスの横を綺麗に避けて歩き出したヴァリアスに、シドも王子を放っていいのか疑問を感じながらも、主人の後ろについて書斎からでることにした。
「置いていくなんて酷いよ!」
喚きながらも、王子は無視する主従の後について書斎を出て行った。




