19-1
「さて、どうしようか。この瓦礫」
ヴァリアスに了承を得た後、一階の瓦礫の山の前でシドは当惑していた。先ほどはリエッタに急かされてさっさと通り過ぎてしまったために良く見ていなかったが、改めてみると酷い状況だったのが判る。廊下に散らばった瓦礫から壊れた壁に首をめぐらせる。
使用人の広間だった場所だったところは室内も荒れていた。綺麗に並んでいたはずの長机はひっくり返り、椅子は足が折れたり、背もたれが壊れて倒れている。窓からは硝子がなくなり、かろうじてカーテンレールに引っかかっている襤褸切れのようなカーテンが、心地いい爽やかな風に揺らめいている。
「あああ~。これをどうにかしないといけないのか~」
廊下に面した壁と接している二面の壁には衝撃を物語るように所どころ罅が入り、天井から吊るされている明かりの支えの鎖が一本切れ、鎖が揺れるたびにギイッと軋む音をたて天井から塗料が剥がれ落ちて床にクルクルと舞い落ちる。
シドは乾いた笑いを貼り付けて、現状を把握しようと顔を動かしていたが、精神的に一杯になり「あ~」と低い声を出して、しゃがみこみ両手で顔を覆い隠した。
「………はー。嘆いてもしょうがない。一つずつ片付けますか……」
暫くしゃがんで呻き声をあげていたが、長いため息をゆっくりと吐いて、シドは立ち上がった。
「さて、まずは、この瓦礫をどうにかしないと、歩くのも大変だよな。……一つ一つ運ぶのは時間が掛かるし……」
なにか、運べる機動力はなかっただろうか。シドは屋敷の掃除用具室の中を思い出してみるが、とくに運ぶのに使えるものがあったような覚えはない。他になかったか、と考えていると、初日に来たときに倒壊した納屋に一輪車があったことを思い出した。
「よし。まずは納屋に行って、一輪車が無事か見てこよう。……壊れていないといいんだけど……」
ぶつぶつと独り言をもらしながら、壊れた納屋へ行くために瓦礫をひょいと避けつつ、調理場の勝手口へと進んでいった。
勝手口から庭に出て、シドは納屋へとたどり着いた。納屋もまた手付かずで、倒壊したままだった。
「……緑になってきてるよ。……やっぱりこの納屋も僕がどうにかしないといけないんだろうな~」
一月も経ってないはずなのに、むき出しになっていた柱の残骸には薄らとコケが生え始め、全体的に緑っぽくなっていた。片付けるべきところが次々に見つかり、シドは盛大にため息を零したくなった。
「今は屋敷の掃除を第一に考えよう。納屋なんて人が来なそうなところは後回しだ。……ああ、でも、無事なものは取り出しておいた方がいいなかな?」
納屋の中を覗いて見ると中は空洞が出来ており、崩れた当時のままだった。目を凝らしてみると薄暗い納屋の中が薄らと見える。地面には色々と散乱しているが、まだ使えそうなものがたくさんありそうだった。シドは崩れ落ちた屋根に手をかけ、何度か強くゆする。すると、ぱらぱらと木片が納屋の中に落ちる。暫く待ってみるが、木片以外が落ちてくるようなことはなかった。どうやら、これ以上崩れる心配はなさそうだ。
中に入っても大丈夫そうなことを確認したシドは、エプロンのポケットに入れておいた大きめなハンカチを取り出して、三角形にたたみ口元を覆い後ろで縛った。埃を吸わないための必須用品だ。
納屋の入り口は歪んでおり、シドは屈んでゆっくりと納屋の中に入っていった。
入り口から入ると内部は立ち上がっても問題ない広さがあった。シドは慎重に立ち上がり、柱など触ると崩れそうなものは避け、薄暗がりのなか目を細めて目的のものを探し始めた。
「お、あった」
そんなに広い場所ではなかったので、一輪車は直ぐに見つかった。横に倒れている一輪車を慎重に起こし、壊れていないか確認する。車輪も、荷を乗せる部分も壊れてはいないようだ。ほっと一息ついて、シドは一輪車を外に出す作業に移ることにした。
まずは出入り口に一輪車を持っていくために、地面に散らばっている品々をどかすことにする。その際、仕えそうなものは入り口近くに置き、壊れているものは別の場所に置いておいた。数十分ほどの作業で、地面に散らばっている全てでは無いが、一輪車の通る道は確保できた。シドは一輪車のハンドルを持ち、周りにぶつからないように慎重に動かし、入り口付近まで持っていく。
一輪車は納屋の半分は潰れてしまった入り口にギリギリ入る大きさだ。これなら外に出せると喜んだシドだが、このまま押していくとうっかり変な場所に触った場合、生き埋めにされるのではないかと思い至り、押そうとしていた手を止めた。少し考えた後、一輪車をその場で回転させ、入り口の方にハンドルを持ってきた。そのまま後ろ歩きの状態でシドは周りを確認しながら納屋からでた。
後ろ向きで何とか一輪車を出すことに成功した。シドは一輪車をそのまま後ろ向きで引いて、納屋から少し離れた場所で止めた。
「ふう。これで屋敷の方も楽になるな」
額に浮き出た汗をぬぐい。口元を覆っていたハンカチを外した。綺麗な空気が鼻腔をくすぐり、埃の匂いを思い出してシドは盛大なくしゃみをする。
「ぶえっくっしょん。……はー。さて、運べそうなものも一緒に運んでしまおう」
腰を伸ばしてから、シドはもう一度納屋へと屈んで入っていった。それから、何度か納屋から顔を出しては、先ほど避けていた使える品物を納屋の外に出した。最後に如雨露を手に持って、シドは納屋から出てきた。
シドの足元にはスコップや鎌などこまごまとした園芸用品が置かれている。ぺしゃんこに倒れなかったおかげで無事なものがかなりの数あった。まだ納屋に残っているが、全て運び出すのは大変だ。シドは目に付いたものを優先的に運び出したのだ。
手に持っていた如雨露を他の品と一緒に置き、シドは離れたところに停めていた一輪車を取りに行き、納屋の前まで押し、救出した品を一輪車の荷置きに積み込む。
シドはバランスをとりながら、一輪車を押して屋敷に戻っていった。




