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18-2

本当に、この屋敷は次から次と可笑しな噂や目撃証言が出るな、と子供達の背中を眺めながらシドは思考の海に意識を飛ばす。


(この子達に良く会うけど、きっと気味が悪くて何があるか判らない屋敷だから好奇心を刺激されるんだろうなぁ。家の三つ子も何でかしらないけど、近所の塀に子供一人分と通れるくらいの穴が開いてたら嵌っていたことがあったっけ?)


 あの時は確か、いつもおっとりなアレンが壁に嵌ってリズとクランが泣きながら助けを求めに来た。その騒ぎで塀の家の人が出てきて子供の顔が塀から出ていたために驚かれたが、家人に謝ったら笑って許してもらえたが、本当に子供の好奇心は解らない。


 まあ、シド自身も覚えのあることだ。シドの場合は、塀と塀の間に挟まったことだ。今思うとどうして塀と塀の間に挟まってみようと思ったのだろうと首を傾げてしまうが、その時は本当にそうしてみなければという妙な使命感を持っていた気がする。挟まって暫くは楽しかったが、直ぐに出られないことに気がついて泣き出したが。その後、見つけに来た母親が、半泣きで助けを求めているのに何で嵌ってるんだと爆笑された思い出がある。できれば、記憶から消したい思い出の一つだ。


 子供は予測不能という言葉を母親から聞いていたが不思議としっくりとくる。両親が行方不明になり、三つ子たちの面倒を良く見るようになってからしみじみと母の子育て名言はためになる、とシドは密かに噛み締める日々を過ごしている。ふと視線を感じ、思考の彼方から意識を戻すとキーザとウェンがいつの間にか話し終わったのか、真剣な表情をこちらに向けていた。


「ん? 何かわかったのか?」

 シドが聞くと、子供達は頷いた。

「うん。わかったんだ、にーちゃん。あれは絶対に幽霊の仕業だ!」

 キーザの言葉にウェンも何度も頷く。


「……なんで?」

「だって、にーちゃん言ってたじゃん。幽霊って透けてるって。あれは、絶対に緑色の幽霊だよ!」

「うん。あと、青色の幽霊もいたんだよきっと! ど、どうしようぅ」

「あ、ああ、なるほど……」

 どうやら、彼らが見たのはキラキラして透けているものだったようだ。シドはつい先ほど自分で幽霊について言った言葉を本気で信じてしまった子供達にシドが、どうしよう、と言いたくなった。


「……えーと。透けてキラキラしてたのはわかったから、他には? どんな風に移動していたかとか?」

「うん。緑と青が一緒になったり交互になったりしながら地面を移動してたんだよ。多分、地面に写ってたのは幽霊の影だったんだと思う」

「こ、こわいよ~」

「そ、そうか……」

 シドは子供の想像力に脱帽し、言葉に詰まった。頬をかいて、この話をどうしようかと思案する。


「ともかく、幽霊どうかははっきりしないが、青と緑のキラキラ光る何かがこの屋敷の中に入っていったのは確かだな」

「う、うん。でもね、本当に入ったかはわからないの? 僕達が角を曲がって追いかけたらカチャンってここの門だと思うけど閉まるような音がしたから、だから、ここから見えないかなって思ってみてたの」

「音がしたんだから、ぜったいここから入ったんだって。だって、他に入る場所無いじゃん」

 ウェンとキーザの二人は何かがここから入ったとしきりに主張する。シドは屈んでいた為に地面につきそうだった後ろ髪を撫でるように梳いて立ち上がった。


「わかった。じゃあ僕が確認するから、君達は入ったらだめだよ」

「えー、何でだよ? 見つけたの俺達だぞ。調べたいっ!」

「ぼ、ぼくは恐いからいいよぅ」

 子供たちの反応にシドは見下ろす形で優しい口調で言った。

「前にも言ったけど、ここは人が住んでいるところなんだ。勝手に入ったらここの屋敷の人にすっごく起こられるんだぞ? その後に、絶対お母さんだって怒るぞ」


 正直、屋敷の主であるヴァリアスが子供相手に怒る場面は想像出来ない。どちらかと言えば、そのまま勝手に探検させて姿を見せなさそうだが。屋敷の中は子供には少々刺激が強すぎる絵とかがある。シド自身出来れば見たくないような品々だ。そんな場所に子供が入れば心の傷になりそうだ。


 やんわりとだが、入ってはいけないと釘を刺すシドにキーザは不満そうだが、ウェンはあからさまにほっとしている。やがて、キーザもしぶしぶながら納得したのか、不満気な表情は変わらないが、小さく頷いた。

「……わかった。母ちゃんに怒られたくないから入んない」

「ああ、ありがとう」

 笑顔で礼を返すシドにキーザはそっぽを向いた。

「ちぇっ。あっち行こうぜウェン」

「う、うん」

 子供達はシドの脇を通り過ぎ、表通りの方へと歩いていく。その後姿に、シドは今更ながら一人足りないことに気がついた。

「あれ? そういえばもう一人、アーロンはどうしたんだ?」

 その言葉に、ふてくされた顔をしていたキーザは一瞬で不思議そうな表情になった。

「アーロン? 誰だそれ?」

「えっ!」

 シドはキーザの言葉に驚いて固まった。


「……………………ぶっ。あははははは! 引っかかってやんのー。にーちゃん今、アーロンが幽霊だと思ったろ!」

 シドの表情がよほど面白かったのか、キーザは腹を抱えてシドを指差して大笑いする。それで、シドはからかわれた事に気がついた。悔しいが、キーザの言うとおり一瞬アーロンが居ない存在かと思ってしまった。

「こ、こらっ! からかうな!」

「へーんだ。俺らを甘く見るからそうなるんだよーだ。あ、幽霊見つけたら教えろよ! 行くぞウェン」

「あ、あの。今日はアーロンは家の手伝いでいないだけで、幽霊じゃないから。あっ、まってよキーザ!」

 言いたいことを言ってさっさと走り去っていってしまったキーザに遅れないようにとウェンも早口で話し、キーザの後を追うように走っていってしまった。二人はあっという間に角を曲がり見えなくなった。

「………あ、侮れないなぁ。子供は」

 キーザは将来、役者でもやっていけそうだ。シドはすっかりだまされた自分に笑った。

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