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17-1

シドが住んでいるマリシアン町の一つ隣の町の船着場から出ている、南地区にある城や貴族街へ行く渡し船の船上にシドはいた。

 晴天の朝日が、水面を宝石のように煌めかせる。

 シドが乗った定期船には数十人の乗客も朝早くから乗り込んでおり、南地区の船着場に着くまでの一時を楽しんでいた。


 レーネ川には今日も大小様々な船がのんびりと、時にせわしなく通り川面を騒がせていた。

 シドの頭に巻かれていた包帯は取れ、時折吹く川の匂いを運ぶ風に前髪が揺れ、額があらわになると赤みを帯びた瘡蓋が見えた。


 シシリー家の兄妹たちで話し合ってから、数日が経っていた。

 ランカに言われたとおり、包帯が取れるまで家で大人しくしていた。その間、色々と考えることが出来て、結果的に自分の心に余裕ができた気がする。それにあの話し合いで、兄妹での絆が更に強くなったようにシドは感じていた。


 自分はどれだけ肩に力を入れすぎていたのだろう。

 必死すぎて、振り返れなかった。思いもしなかった。そんな置いてきた感情が休んでいたシドに次々と襲ってきて、羞恥心で悶えたくなった。実際は、髪の毛を掻き回すのも傷に触るので出来ず、大声を上げるのも近所迷惑のような気がして、家の中をぐるぐる回ってはうーうー唸ってしまった。そんな状態をうっかり三つ子に見られ真似されて更に悶えたくなったのはレンとライには秘密だ。最近あの双子の言動は精神力を削る魔法でも掛かっているのではないかとシドは思うときがある。フェリス国民なら大体十五歳前後で紋章が浮かび上がるが、その前から紋章魔法の兆候は出ると言われているからだ。


 もしかして、双子は精神系の魔法でも会得するのだろうか。紋章魔法は親から子に受け継がれることのほうが稀で、家族だからといって同じ系統の魔法が使える紋章が浮かぶということは殆どない。シシリー家でも母は炎の紋章を持っているが、母の親兄弟では炎の紋章を持っている人は居ないそうだ。父にいたってはフェリス国民ではないので紋章魔法は使えない。だから、シドは自分がどんな魔法が使えるのか、紋章が浮かぶ日まで、どきどきしている。出来れば、『不幸少年』と呼ばれるのを脱却できるような奇跡的な紋章が浮かんで欲しいと思っているが、それこそ神のみぞ知る、だ。


「……まだ、目が痛い気がする」

 上の空で船上の景色を流し見ていたシドは目の奥に痛みを感じ、親指と人差し指で眉間の辺りを揉んだ。痛みの原因は決して水面の輝きではない。つい先ほど寄った場所の所為だ。


 そこは色とりどりの花が鉢植えの中で咲き乱れ、これぞピンクといえるようなどぎついピンクのレースのカーテンがはためいていた。入ると脳内が桃色に洗脳されそうなカーネリアン職業斡旋という名の魔窟に果敢にも挑んできたのだ。

 朝から疲れた。この言葉が一番しっくり来る。


 斡旋所の外観をみて、ふうっと気が遠くなったのはシドに非があったわけではない。

 植木鉢はワイヤーで外壁につけられ、壁の上から下まで5段に分かれ花が壁一面を埋め尽くしていた。その植えられている花には何一つ淡い色はなく、人と捕食してますといわれても納得できるようなどぎつい色をした花々が獲物を待ち構えているように咲いていた。


 斡旋所の扉の手前に置かれている植木が絶妙に剪定されて『カーネリアンあっせんじょ』と縦に読めるのは相変わらずなのに、一月も経たずに、というか、ついこの間怪我で世話になったときまではお菓子のオブジェが飾られていてお菓子の家のようだったのに、一体何があったのだろうか。

 思わず泣き言を呟いてしまっても許される位どぎつい場所になっていた。


「……あれは、暫く行きたくないな」

 斡旋所の中に入るまでに十分くらい葛藤してしまったシドは自分が正常な美意識の持ち主だと信じたい。

 なんとか、斡旋所内に入ったシドはバーフィア所長と対面して仕事を続けるための手続きをしたはずなのだが、記憶が定かではない。なんとなく一面がどぎついピンクだったような覚えはあるのだが、気がついたら書類片手に定期船の停船所の寂れた椅子に放心した状態で座っていた。


「まもなく南の三番停船所につきます。着岸の際揺れますのでお立ちのお客様はご注意ください」

 船頭の声にシドは先ほどの悪夢を振り払うように頭を振った。

 手に持っていた書類をちらりと流し見る。この書類をウィルフズ家にもう一度持っていき、了承を得ればまたヴァリアスの元で働くことが出来る。


 シドは書類を無くさないようにと紙が曲がらない程度に手に力を入れ、空いている手で船の手すりを掴み、岸に着く際の衝撃に備えた。

 思い思いに会話を楽しんでいた十数人の乗客たちも下船に備え始めた。不思議と着岸するまで話す者は少なくなり、打ち寄せる波の音と船の操舵の際に生まれる音が一際大きい音になって耳に届く。

 ガクンと体が揺れに合わせる様に前後に揺れる。その後に胃の辺りに軽い浮遊感が襲い、船はゆっくりと着岸した。


「三番停船所~。三番停船所~。ご利用ありがとうございました。忘れ物のないように今一度お手回り品を確認してからの下船をお願いします」

 船頭の声の後に、乗客たちざわめきと共に次々に船を降りていく。シドも下船する乗客の流れに乗り、ゆっくりと歩みを進めて船を降りた。

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