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16-5

どやっと胸を張って双子は言い切ると、満足したのか、同じタイミングでお茶をすすった。

「……確かに」

 ランカは目からうろこが落ちたような顔で肯定した。


「納得するな!」 

「でも、事実だし……」

「事実でも否定して!」


 シドが思わず叫ぶと、

「事実を否定しても、現実は変わりませんよ、シド兄さん」

「現実逃避をしても、我が家の問題は一向に減ることは無いんですよ、シド兄さん」

 と双子が妙に重い言葉を発する。


「……はぁ~。そうだね。確かに、まだ母さん達の手がかりがないんだ。家の貯金は少しでも増やしとかないと何が起こるかわからないし。俺が働けるのは学校を卒業してからなのも事実だ。……いいよ。兄さん」

「……そ、そうか。ランカ、ありがとう」

 ついに折れたランカに、シドは嬉しいはずなのにどこか納得できない顔で感謝を述べる。


「でも、本当に、大怪我だけはだめだからね」

 念を押すように言われ、シドは苦笑した。

 弟達に心配をかけてしまった。これからも、恐らくかけてしまうだろう。それでも、仕事を続けたいと我侭を言ったのは自分だ。せめて長男として、そんな心配をいらぬものとばかりに払拭させるのが勤めだと思う。


 シドは何も心配要らない、任せろとばかりに、胸を叩いた。

「大丈夫。幾つもの理不尽な不幸を体験してたんだ。最小限に怪我を抑えて回避行動をとるのは自信がある」

 自信を覗かせたシドの服の裾を左右からつんつんと引っ張るものがあり、シドは何だとその引っ張る先に顔を動かす。


「にー、けが、だめ」

 つんと左の裾を引っ張ってクランが見上げていた。

「クラン……」

「めっ、めっよ。しどにーたん」

 リズはクランの隣から椅子の上で膝立ちし、身を乗り出すようにしながらシドに向かって、腰に手を置いて少し泣き顔が入った怒っているような表情だった。 

「リズ」

「………めー?」

 アレンも右の裾を引っ張るのでそちらに向けば、普段はぽやんとした表情が多いアレンが、困ったような泣きそうな顔になっていた。

「アレン。……ああ。怪我はしないよ。まあ、いつもどおり、『不幸』な出来事でかすり傷は作るかもしれないけど。約束するからね」

 三人が左右から心配げな表情でシドを見上げていたので、シドは小さな兄妹の心配を吹き飛ばすように、ちゃかすように言って微笑だ。


 じっとシドを見つめていた三つ子は兄の言葉を信用したのか、にぱっと花が咲くように笑い、頷いた。

「ん。じゃあ、いいよー」

「にー、ふこうはタイヘンねー」

「……ふー」

 安心したのか、三つ子はニコニコしたり、安堵した表情で席に座りなおした。

 とりあえず、自分の事に関しては、これで良いだろう。


 弟妹達に何とか納得してもらえたことに、シドは知らず詰めていた息をこっそりと吐いた。

「じゃあ、早速だけど、明日には斡旋所のほうに……」

「なに言ってるの兄さん。せめて包帯が取れてからにしてよ。じゃなきゃ反対するよ?」

 ランカが冷たい視線を向けながら、冷たい声音で言う。

「……はい」

 善は急げとばかりに逸ったが、ランカの後ろに氷の世界の幻を見たシドは怪我が治るまでおとなしくしてようと決めた。

「ランカ兄さんは怒らせたら怖いです」

「ランカ兄さんを怒らせるのは愚かです。………ところで、我らが両親の手がかりはまだ見つからないんでしょうか」

「そうですね。いい加減、何か進展の一つくらいあるべきです」

「……あ、そうだった。今日、斡旋所のと一緒に父さん達が所属している紋章研究所から手紙が着たんだ」

 自分の仕事の話が終わったら切り出そうと思っていたら、丁度良く双子が話を振ってくれた。シドは立ち上がり、卓の向こう側、ランカたちの後ろにある飾り棚に近づく。忘れないようにと飾り棚に飾られているブリキ缶の横に立てて置いていたのだ。


 手を伸ばし、置いておいた手紙を手に取って、席に戻ろうと踵を返す。

「手紙にはなんて?」

「見てくれ」

 シドの動きを目で追っていたランカが聞いてきた。シドは席に戻る途中で持っていた手紙をランカに渡した。

 ランカがすでに封が切られている手紙の中身を取り出して、目を通す。その間に席に戻ったシドは、温くなったお茶を飲んだ。


「ランカ兄さん。何と書いてあるんですか?」

「ランカ兄さん。何が書いてあるんですか?」

 じっと手紙に目を通しているランカにやきもきした雰囲気でレンとライが聞く。三つ子も卓に手をついて身を乗りだしてランカの言葉を待っている。


 そんな弟妹達を眺めて、手紙の内容を知っているシドは、失敗したかな、と心中で呟いた。

 シドがティーカップを卓に置くのとほぼ同時にランカが手紙を読み終えた。

 ため息一つ零し、ランカは顔を上げた。

「………まだ、見つからないって」

 首を振って、落ち込んだ声で手紙の内容を伝えるランカに、兄妹は落胆の表情を浮かべた。

「…………」

「…………」

 やはり、と言いたげに、双子は無言で吐息を吐いた。

「……とーしゃん……」

「おかーしゃん……」

「……帰んないの?」

 三つ子はうるうると今にも泣きそうな涙声でシドに向かって聞いてくる。


 シドはうろたえた。三つ子があとちょっとなにかあれば直ぐにでも泣き出しそうだ。

「う! そ、そうだ。と、父さんたちのことだから、珍しい紋章について描かれている壁画でも見つけて、遺跡に迷っているんじゃないかな? は、はは」

 乾いた笑いで咄嗟に思いついたことを言ってみる。

 三つ子はしゃくりあげて差し含む。

「そうだね。母さんも父さんも研究馬鹿なところがあるから、案外、探してくれている人たちとすれ違いながらも遺跡探検しているのかもしれないね」

ランカがシドの思いつきに賛同するように続ける。


 兄二人の言葉に、ライとレンも首を少し傾げてから納得するように頷いた。

「……確かに、家族の団欒の次に研究好きを豪語していましたから」

「ありえない、とは言い切れないのが、困るところです」

 上の兄弟たちの話にリズ、クラン、アレンは互いに顔を見合わせ、不思議そうに目をぱちくりさせた。

「しょーなの?」

「……まいご? だめねぇ」

「……まいご、さん?」

「そうだよ。ただの迷子かもしれないから、ちゃんとご飯食べてよく寝て、父さん達がいつ帰ってきてもいいように病気とかしないでおこうな」

 三つ子の涙が引っ込んだことにほっとしつつ、シドが優しく諭すように話す。クランとアレンはそれぞれ目を擦り、素直に頷いた。しかし、リズはシドの顔をじっと上目遣いで見たかと思ったら、うんうんと頷いてぴっとシドに向かって指を差した。

「シドにーたん。ケガもだめでしょ」

「うっ!」

 リズに的確な指摘をされ、シドは言葉を詰まらせた。


「リズ。人を指差しちゃだめだよ」

 ランカは窘めるも、その表情は笑いを湛えようとしてけれでも、不謹慎かと思い自重しようとして失敗した苦笑いの様だ。

「リズ。素敵なツッコミです」

「リズ。的確なツッコミです」

 ぐっと親指を立てて末っ子を賞賛する双子。


 ランカがついに耐えられないとばかりに笑い出し、双子も表情が動かないも、目を細めて楽しそうにしていた。三つ子は兄達が何故笑っているのか良く解っていない様だったが、つられて笑い出す。

 シドは文句を言いたかったが、やらかした張本人であることは重々身にしみているだけに、唸ることしかできなかったが、次第につられて笑い出した。

 夜の空にシシリー家の兄妹の笑い声がよく響いていた。

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