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16-2

「お茶が入りました」

「お茶を飲みましょう」

 しばらく三つ子の変顔を眺めていたらライとレンが片づけを終えてお茶を入れて持って来た。

それぞれの前にお茶を置いた双子が座る。


 熱々のお茶に息を吹きかけながらゆっくりと啜る。三つ子も変顔をやめて、お茶をふーふー、と真剣な顔で吹き始めた。

 熱いお茶が喉を通って、ほっと息が漏れる。暫く声もなくお茶を飲んでいる。

 ちらりとランカや双子達を見やるシド。三人ともお茶を味わっているようだ。


 シドは昼間来た手紙で決意した。それを、今ここで告げようと思うのだが、なかなか頃合がつかめない。

「……兄さん。どうかしたの?」

「……挙動不審です」

「……挙動が不安です」

 ちらちらとランカや双子に視線を送っていたことに気づかれた。シドは腹をくくって離してしまおうと考えた。


「あ、うん。ちょっと言いたいことがあったんだけど、その前にライ、挙動が不安ってなんだ。不安って」

「……え? 行動が不安心という意味ですが?」

 なにか問題でも、と無表情なのに書いてあるのが読めてしまった。

「…………あ、そう」

 そんなに可笑しな動きをして不安を感じさせたのか、と地味に心臓の辺りがジクジク来る言われようだが、シドは反論せず、そっと心の中で泣いておいた。


(ライの口の悪さは今に始まったことじゃないやい。お兄ちゃんは傷ついてなんてないもん)


「……ライ、それは言いすぎだよ。ちょっと気になるくらい見られていたけどさ」

 ランカは長男を慰めようとして止めを刺した。


「………にーたんイタイ?」

 思わず、卓に突っ伏しそうになったシドにリズが気づいて声をかけた。

「だ、だいじょうぶだよ。痛くないよー。うん、ぜんぜん。は、ははは」

 妹の優しい言葉にほろりと涙を零しそうになりながら、シドは無理矢理感満載の強がりを吐いた。


「それで、なんですか。シド兄さん?」

「……見事に動じないで聞いてくるな、レイは。………まあ、いいか。……その、だな。仕事のことなんだけど……やっぱり、つ、続けようと思う」

 続ける、という言葉には幾分か力が篭ってしまった。シドは反対されるかもしれないと一抹の不安を感じ、弟達の顔が見られなかった。

 一寸会話が途切れ、重い空気が場を支配した。


 ランカとライ、レンは場の空気を吹き飛ばすかのように大仰なため息をついた。

「え? 何でため息?」

 解らないのはシドだ。反対されるかと思っていたのに、反対されなくても何か言われるかと思ったのに、なぜかため息で返されてしまった。


 シドは顔を上げて、弟達を見る。その表情は戸惑っており、そんな兄に気がついたランカが苦笑した。

「言うと思ってた」

「え?」

「だって、兄さん。ここ二日心此処に在らずだったじゃないか」

 苦笑を通り越して苦笑いになっているランカに、シドは居た堪れない感情が沸き起こった。それに、簡単に自分の心の中を言い当てられたことにちょっとした羞恥心も感じ、ムキになって言い当てられたことを否定するようなことを言ってみた。

「怪我が痛くてボーっとしていたとは思わないわけ?」

 その言葉に反応したのは双子だった。


 ライもレンも無表情ながら、少しだけ表情が動いて不思議そうに目を瞬かせた。

「え? フェリアス国を突っ切るように流れているレーネ川にシド兄さんのありえない『不幸』で落ちて水底に沈んでから、三十秒位してから、水面に顔だけ出して、落ちてるじゃんって叫びだしたような鈍さでしたよね?」

「え? 町の商店通りで起きたシド兄さんの笑える『不幸』でなぜか水牛の大群に襲われて、ふっとばされて果実店の見切り品の商品かごに突っ込んだのに頬を少し切るくらいですんだけど、怪我したことに気がついたのは家に帰ってからだったほどの鈍さですよね?」

「……………何が言いたいんだ」

 双子の言っていることに思い当たりがあるシドは、じと目で双子を睨む。目つきはあまり良いほうではないので、これだけでシドを知らない人間が見ればガンつけられているように見えるほど、凶悪な眼差しのはずなのに、双子はまったく気にする素振りもなく、話を続けた。

「鈍いシド兄さんが怪我の痛みにボーッとするようなことはほぼないかと思います」

「鈍すぎるシド兄さんが怪我の痛みに七転八倒する姿が想像できなくて困ります」

「…………」


 双子の言葉には悪意がないことを信じたい。下手につつくと蛇が出てきそうだ。かといって、何も言い返さないのもなんだか癪に障る。

「……鈍くはないと思う……」

 シドは唇を尖らせて、ぼそぼそと反論しておいた。そんな兄に双子は、なまぬるーい視線を意味深に送る。

 ちらとランカのほうを見ると、ランカは、横を向いて肩を震わせていた。


(絶対笑っている!)


 ランカたちに文句の一つでも言ってやろうかと、口を開こうとしたシドはふと左右からの視線が気になった。

 見下ろす形で左右を見ると、三つ子たちが不思議そうな顔をしてシドをじっと見ていた。

「な、なにかな?」

「にぶいの?」

「にぶにぶ?」

「にぶ?」

「…………」

 三つ子にまで言われてしまった。シドは可愛く首を傾げている三つ子にうっかりと半眼になってしまった。

「ぶはっ! あはははは」

 ランカが耐え切れないとばかりに噴出して、卓をたたきながら大笑いし始めた。

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