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16-1

 今日の夕食はシドが作った。あまりの暇に、ランカが帰ってきたとに奪うようにして食材を受け取り、有無を言わさず調理を始めた。さすがに鬼気迫る勢いだったシドに注意が出来なかったようで、ランカは心配そうにしながらも何も言わずにシドの好きなようにやらせてくれた。


 おかげさまで、今日の夕飯は安全かつ一般的な料理だったと思う。食べた瞬間に意識が吹っ飛ぶようなことは断じてなかった。

 皿の片付け当番は双子達だ。自分の使った皿は各自で台所に持っていく。三つ子はさすがに危ないので、コップとスプーンやフォークだけを持っていかせることにした。えっちらおっちらと危なげにコップを運ぶ三つ子たちにはらはらしつつ、兄妹全員で卓の上を片付け、拭いた後、双子以外はまた席について一息ついた。


 数日前まではシドが殆どの家事をこなしていた。一人だった所為で食器の片付けも時間が掛かったものだ。それが、今日はあっという間に終わってしまった。両親が行方不明になる前から、仕事でよく家を空けていた両親の変わりに家事をこなしてきたが、本当に大変だと思ったときだけ兄弟達に手伝ってもらっていた。今思えば、兄弟達にも家事を覚えてもらおうと考えていながらも、シド自身で頼ることをしなかった所為で逆に迷惑をかけていたのかもしれない。


 よく手伝うといってくれていたのに、あまりやらせなかった。これじゃ、信用していないと言外に言われているようなものじゃないだろうか。

 ランカたちが家事を始めて、どこか生き生きしている雰囲気を感じたシドは自分がいかに余裕がなく、兄妹たちに迷惑をかけていたことを痛感した。


 今も手を出したい気持ちを押さえつけているが、これも兄妹の成長だと思うと嬉しい反面、自分の手から離れていっているようで、寂しい気もする。

 シドは自分がいかに長男であることにこだわり、兄妹たちを守ろうとして逆に守られていたのか、今なら良くわかった。


(空回り、してたんだよな……)


 昼間は何もやることがなく、今までの自分の行動を振り返ってしまうことが多かった。そして、はっきりと自覚した。馬鹿じゃないかと言いたくなるくらい空回っていた自分がいたことに。

 今日郵便屋に言われたような仕事の失敗談は周りが聞けば笑えるかも知れないが、あの時は本当に必死だった。必死すぎた自分を振り返って、ようやく、やっと、頭を抱えて悶絶したくなった。頭を怪我していたから出来なかったが。

 特に、怪しい呼び込みは未成年だってばれていたら学校を休学どころか退学になっても可笑しくない話だった。


(……余裕がないって怖い!)


「…………兄さん。どうしたの?」

「え?」

 一人悶々と考えていたシドにランカが恐る恐るといった様子で声をかけてきた。その声に現実に引き戻されたシドは間抜けそうな声を出して、向かいの席に座っていたランカに顔を向けると、ランカは若干引きつった顔をしていた。


「えって、さっきからうーうー言って、両耳を自分で引っ張ったり、頬を拳でぐりぐりしたり、き、傷が痛むの? クランたちも真似し始めたんだけど……」

「え?」

 言われ、左右を見ると、リズ、クラン、アレンが耳を引っ張ったり頬を引っ張ったりしてうー、やら、いー、やらと唸り声のようなものを上げて楽しそうに遊んでいた。

「…………クラン、リズ、アレン、兄ちゃんが悪かった。それはあんまりやらないで」


「うー?」

 と、アレンが両耳を引っ張りながら唸り。

「いぇー?」

 と、クランが両頬を抓りながら答え。

「むー?」

 と、リズが両頬を押しつぶすようにしながら、禁止されたことに不満そうな声を上げた。

 頬をぐりぐりするのは三つ子にはまだ高度技術だったようだ。

「……人前ではあまりやらないでね」

 あまりに楽しそうにやっているので、長男はつい甘やかして妥協案を提案してしまった。


「あーい」

「はーい」

「……ーい」

 三つ子はそれぞれ良いお返事をしてから、次第に変顔をし始めてしまった。ランカからは妙に圧力のある視線を感じた気がするがシドは気づかなかったことにした。

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