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6-2

 仮にも相手は屋敷について知っている先輩の一人である。聞いておいて損は無いだろう、とシドは朝からの出来事で新人使用人としての純粋さが陰り、やや磨れたような表情で聞き返した。

「つい? 何でしょう?」

「あーいや。その……私が言ったって事は内緒にしておいてくれる?」

 ちょっと怯えた素振りを見せて、マークは扉から少し顔を入れ、調理場をきょろきょろと見回してから、シドにもう一度顔を戻した。


 一体、何がしたいのだろう。

 シドは男の行動に疑問を感じつつも、何を言おうとしているか興味を持ち、コクリと頷いた。

「えーっと。まず、君は若様の噂をしっている?」

 尋ねられ、シドはちょっと考え込む。

(それって、リエッタさんが言ってたこと、だよな。……そういえば、ランカも悪い噂があるとか言ってたけど……)


「それって、ヴァリアス様の傍にいれば不吉なことが起きるって言う話ですか?」

「そうそう。しかも、不吉伯爵様の近くにいるものは三日以内に大怪我に見舞われるって言われているだろう? だから、君に何事も無かったのに驚いたんだよ」

 その言葉には、好奇心が滲みでていて、ともすれば心配しているというより何も起きていないことに落胆の色が混じっているように聞こえる。


 シドは少しばかり気分を害した。不幸をからかわれる事はよくあることだが、あからさまに人が傷ついていないことに、がっかりといった気配を滲ませる人間には腹が立つ。

 なるべく顔に出さないように我慢するも、失敗して目つきがいつもより鋭くなってしまった。そんなシドに気がつかないのか、マークは言葉を続ける。

「まあ、私はまだウィルフズ家に使えて三年目で若様とは直接の面識は無いんだけどね。ほら、食料を運ぶ役を仰せつかっているからねえ、いつ不吉なことが起こるのかもしれないとびくびくしているんだよ。噂だと一目見ただけで階段を踏み外して両足骨折の憂き目にあって、屋敷を去った使用人がいるっていう話も聞いたことがあるし……だから、まあ、君が無事なのにほっとしたのと同時に噂はデマだったのかなって、思って困惑しているよ」

「ああ、なるほど。そうでしたか」

 マークの言葉を聞いて自分の早とちりを悟り、シドは直ぐに表情を戻し、愛想笑いを返した。


 勝手に彼を人の不幸を笑うような人間かと思ってしまった。今まで、シド自身の不幸の出来事に笑って済ませてくれる人もいれば笑って馬鹿にするような人、迷惑がる人と様々な反応を浴びせられ、どうやら、ちょっとした不の感情を感じると感じの悪い人だと簡単に考えてしまうのはシドの悪い癖だ。シドは素直に反省した。


「そうですね。そんなにヴァリアス様とは話してはいませんから僕はヴァリアス様の噂が本当かどうかは判りませんが、もしかしたら、唯の偶然が重なっただけかもしれませんよね」

「……まあ、そうだね。…………っと! そうだった、食料とかを持ってきたんだった。ちょっと入らせてもらうよ」

 シドの言葉に微妙は反応を返した後、マークは思い出したかのように体を軽く捻り、首を回して自分のやや後ろのほうに視線をやった。


 マークの視線を追ってシドも扉から顔を出してみると、そこには荷台に乗せられた木箱が二つあった。

 マークは慣れた手つきで荷台の横にたち、重そうな木箱を軽々と持ち上げて裏口のほうへ持ってくる。シドは慌ててマークが中に入りやすいように身体をずらして道を明けた。


 裏口近くに置かれていた簡素なテーブルにドンと鈍い音をたたせて木箱を置くと共にテーブルの脚がぎしぎしと鳴った。シドがその音に驚いている合間に、マークは残りの一つも持ってきて同じようにテーブルの上に置いた。

「さて、これで全部だよ」

「……あ、はい。ありがとうございます。そうだ。何か飲み物でも」

 ついでに、屋敷についてやヴァリアス様についての話をもう少し聞ければと、下心を持って勧めてみるが、マークは慌てて首を振った。

「っ! いや、いいよ。次は三日後にまた来るから、何か必要なものがあったらその時に言ってくれ。じゃあ!」

 長居は無用とばかりに、マークは早口に言うとさっと裏口から出て行き、荷台の持ち手を掴み、後ろを一度も振り返る事無く、急ぎ足で邸を後にして行ってしまった。


 長居をすれば噂の主のヴァリアスに出会うとでも思ったのだろうか。それとも、誰が見ても幽霊屋敷に長居をしたくなかっただけか、シドには判断がつかなかったが、どうやらお茶を飲んでのんびりと話し合うのは難しそうだということは解かった。

「……あー。せめて、掃除用具のある場所を……ってもう遅いか……」

 裏口から少し体を出して、遠ざかった後姿に言っても返事が帰ってくることは無かった。この広い敷地の中から自分で探すしかないのか、とシドはため息をついて遣る瀬無い思いを吐き出した。

「…………ここでぼうっとしていても時間がもったいないな。よし! 出来そうなところから始めますか」

 パンッと手を合わせ、そのまま指を交差させてからぐっと腕を上に上げて伸びをする。絡ませた指を解き、上げた腕を下ろしてから、シドはまずテーブルの上に置かれた木箱から片付けることにした。

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