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5-1

 次の日の朝。朝日もまだ昇り始めた頃にシドは起きた。

 早速仕事着として渡されたシャツの袖に腕を通し、ズボンを穿いた。シャツが全体的に少し緩い感じがしたが、掃除は動くものだ。緩いくらいが動きやすく丁度いいかもしれないと思い直し特に気にしないことにした。


 軽く朝食を食べた後、弟妹たちの食事を用意し、身支度をもう一度整えた。玄関近く、台所とは反対側の方の窓の傍に近づき、薄っすらと指す日差しを窓ガラスの向こう側に見つつ、蝶ネクタイをつける。 

 窓ガラスに近づくと自分の顔が映った。顎を少し上げ、つけた蝶ネクタイの曲がり具合を直し、どこか可笑しなところが無いか最終確認してからシドは玄関のドアノブに一度手をかけ、開けようとした。だが、ちょっとの間考え、手を離して、ダイニングの椅子にかけてあった上着を手にとった。


 肌寒さがまだ残っていたので薄い上着をボタンを留めずに羽織り、弟妹達がまだ寝ている中、シドはそっと家を出ていった。

 まだ太陽の顔が全てできっていない中、町の中心部の商店街のほうからは活気のいい声が時折風に乗って微かに聞こえてくる。


 家の敷地を出て、シドは一度深く鼻で息を吸い、空気を肺一杯に込めた。朝の優しい匂いが鼻腔一杯に広がる。シドはこの匂いが好きだ。太陽の匂いと、昨日の夜の残り香が入り混じったような不思議な匂い。これから一日が始まると知らせてくれるような、そんな匂い。


「あら、シドくん。こんな朝早くから良い服着て、どうしたの?」

「げほっ」

 シシリー家から二軒となりの向かい側から声がかかるなどと思っても見なかったシドは、息を吐くのを失敗して咽た。

「お、おはようございます」

 その場に固まって、シドはなんとか声をだした。

「はい、おはよう。で、どうしたの?」


 声をかけてきたのは、話し好きのおばさんだ。一度つかまれば、半日は拘束されると旦那衆に戦々恐々と語られている猛者だ。

 おばさんの瞳にはキラキラと好奇心が光って見えた。

「その服。一目見ても良い生地を使っているわよね? あら、でも、シドくんには少しあっていないような気がするんだけど……。ということは、シドくんがどっかから買った……古着屋? にしては、新品過ぎるわよね。生地の痛み具合が……」

 ずんずんと恰幅の良い身体を左右に揺らしながら、おばさんは子供の首周りくらいある太い腕に木のバケツを抱えながらシドに近づいて来る。

 捕まったら、確実に仕事に遅れるだろうという危機感が固まったままのシドを突き動かした。

「ごめん、おばさん。僕、これから仕事なんです!」

 シドはおばさんから逃げるように、さっと身を翻し、今が朝方だというのをすっかり忘れた大きな声を出して駆け出した。


「あ。シドくん!」

 おばさんの驚いた声を背後に聞きながら、シドは急いで職場となった東地区はずれのお屋敷に向かった。

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