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そうして夕食後からずっと、三つ子は物言いたげな視線を長男に向けていた。それこそ、食器を下げるときも、寝巻きに着替えているときでさえ。
シドは三つ子の視線に、耐え切れず、もう一度口を開いた。
「あ、あのな。お兄ちゃんは明日から仕事で、早く寝ないといけないんだ。三人とも、何か行ってくれないと、お兄ちゃん、気になって眠れないよ?」
やさしーくいって見るも、三人はじーっと長男を凝視している。
(困ったなあ。……どうすればいいんだ?)
三つ子の機嫌を直して、どうにかして眠らせないと、明日が大変なことになりそうだ。
そう思っても、家の三つ子は手ごわく、誰に似たのか頑固なところがあり、疑問を解決しないと眠らせてくれない好奇心旺盛な部分もあるので、シドはほとほと困り果てていた。
「………シドにーちゃ」
やっとのことリズが口を開いた。
じーっとした眼差しから一変して、リズの視線はどこと無く不安が過ぎっているような気が
シドにはした。それが、何故なのかは良く解らなかったが、長男として、きちんと向き合って話しを聞くべきだということは推測できた。
「ん? なに?」
シドは出来るだけ優い声色にし、胡坐をかいて座っていた自身を少しリズの近くにすりより、背中を丸めて、リズが顔を見上げなくても大丈夫なくらい顔を下げた。
「ランカにーちゃ達が、お仕事、あぶないっていってたよ?」
リズは食後の後に話していた上四人の兄妹の話を聞いて不安になっていたらしい。
「そうだよ。あぶないんだよ。あぶないの」
クランが繰り返し「あぶない」と言う。その言葉に同意するようにアレンも無口ながらも何度も頷いた。
自分を心配しているのだとシドには分かった。そんな不安を消し飛ばすかのように、シドは穏やかに笑い、三つ子の頭を順々に撫でた。
「大丈夫だよ」
「……でもぉ」
優しい声を出すシドに、アレンとクランはほっと息をついたが、リズはまだ納得できていないのか不服そうだ。
シドはそんな妹にもう一度微笑みかける。
「この仕事は、お兄ちゃんが適任だって仕事斡旋所の所長さんに判を押されて、任された仕事なんだ。大丈夫だよ」
シドの言葉に、リズは最初はむぅっとした表情だったが、徐々に緩和され、まだどことなく不満げな部分は残っていたが、納得したのか、こくりと頷いた。
「………うん」
「ありがとな。……じゃあ三人とも、もう寝ようか?」
リズの了承を得て、シドも無意識にはいっていた肩の力を抜いて、三つ子を寝るように促した。
「はーい」
「はぁい」
「……ん」
それぞれ、クラン、リズ、アレンが返事をして、自分達の寝具の中に潜り込んだ。それを確認したシドは、寝具から一旦抜け出し、窓際のある壁に取り付けられていた燭台の灯りを吹き消した。
真っ暗のなか、シドは出窓からさす月光を頼りに寝具に戻り、布団をかけた。
(明日から、あの恐ろしい屋敷の掃除かぁ)
思い出すのは、幽霊屋敷と改名したほうがいいんじゃないか、と思えるほどのお屋敷のこと。
一体、どこから手をつけようかと、考えただけでトホホと落ち込みたくなるが、数秒自分の行動を脳内で模擬をするも、考えても切が無いという結論に達し、やれそうな所から始めよう、と、行き当たりばったりな作戦に思い至った。
シドは少しだけ、気が重いような気がして小さくため息をついた。
「……にーちゃ、おきてる?」
ため息を耳にしたのか、リズが小さな声で、シドに声をかけて来た。
「ん? 起きてるよ?」
囁くように返すシドに、リズは布団をもぞもぞ動かして、シドの近くに顔を近づける。手を口元に持っていき、秘密の話しをするように、そっと声を出した。
「……お仕事、がんばってね」
「………………」
つかの間、シドは言葉に詰まった。
「……ああ、がんばるよ。お兄ちゃんは明日は朝が早いから、朝食はランカ達と食べるんだよ」
「んっ。……おやしゅみ~にーたぁ」
返事を短く返した後、リズはあくび交じりで挨拶をして、頭から布団を被った。
「おやすみ……」
シドは横たえていた身体を半分起こし、ぽんぽんとリズの被った布団を叩きながら答えた。
暫くすると、三つの寝息が聴こえてきた。
目をじっと凝らすと、段々と小さい弟妹たちの姿が見えてくる。クランは早速布団の中で足を動かし、今にも蹴飛ばしそうだ。アレンはなぜか万歳をした格好で、眠っている。リズはまだ動いてはいないが、そろそろ、転がりだして弟達の上を転がるのが容易に想像できる。しかし、どうやって弟達の上に乗っかるのかは、未だ持って不思議な現象としかいいようがないが。
シドは、弟妹達を少しの間見守ったあと、ふっと口元を緩め、枕に頭を戻して目を閉じた。疲れていたのか、すぐに睡魔が現れ、シドはあっという間に眠りの世界へと旅立っていった。




