話を聞いてくれないかな?
ナイヨウハホショウイタシマセン。
ねぇ君みんなひま?
暇だったら私の話を聞いてくれない?
私には、一番になりたい人がいたんだ。一番になりたいっていうのは好きな人ね。名前は高野勇太。ヘタレでお人好しで、どん臭い奴だった。でも、好きだった。だから
「あき、俺、お前のこと好きだ!」
そう言われたときすごく嬉しかったんだ。いつも一番になりたいと思っていた人から好きだって言われて嬉しくない女なんていないでしょ?少なくても私はそうだった。
でも、ことわちゃった。私には、残念ながら時間がなかったんだ。時間がないからこそ、いえばいいじゃんって思うかもしれないけど、私はそう思えなかったんだ。私が死んだら、あいつはどうするんだろう?思っちゃたから。
「ごめんね、ゆう。私はゆうのこと、大嫌い、どん臭くてヘタレで、お人好しで...ほんと..大.嫌い。」
ここで、声が震えなかったら完璧だったんだけどね。震えちゃった。なかなか上手くいかないものだね。ここで上手く言えてればよかったのに....
それから、何となくゆうと会ったり話したりするのが気まずくなったんだ。もともと体調も芳しくなかったし、学校を休みがちになったんだ。たまに学校に行っても、ゆうとは会話どころか、目も合わせないようにしたんだ。つまり、ゆうのこと避けたんだ。最低だね私。
そんな、ことしているうちに、どんどん具合悪くなっちゃったんだ。んでもってとうとう入院することにちゃったんだ。まぁ、ゆうの顔見ないで済むと思うと気が楽だったけど。でも、不思議だよね。どこかぽっかり穴がいてしまったようですごく悲しくて虚しい気持ちになったんだ。それもそうだよね。今までゆうの顔が見たい。声が聞きたい。そう思ってどんなに具合が悪くても踏ん張って学校行ってたのにそれをやめたんだから。生きがいがないと人ってあっという間に弱るんだね。あと数年は大丈夫だった筈なのに、半年で、ダメかもしれないなんてさ。
そんな、ある日。その日はたまたま体調がすごく良くて、私は病院の庭を散歩していたんだ。神様が死ぬ前に私に外を歩かせてくれたのかなって思った。だって死んじゃったら、できないでしょ? これが最後だとしたら、楽しまなくちゃっと思って、上機嫌で歩いていたら、ゆうが現れたんだ。
「思ったより、元気そうでよかった。」
ひどいこと言ったのに、いつも通り何事もなかったかのように、笑ったんだ。ニカッって。
「うん、今日は体調が良くて」
でもね、 正直、帰って欲しかったよ。帽子をかぶっているとはいえ、薬で抜け落ちて髪の毛がない頭を好きな人に見せたくないじゃない?
「あのさ...あき.俺やっぱり...」
「聞きたくない!」
「いいから、俺...って待てよ!!」
聞きたくなくて、逃げようとしたら手を掴まれた。力も強いから、振り解くこともできない。
「俺お前のこと..むぐ」
だったら物理的に、口を塞いじゃえばいいよね。片手空いてるし。と思ったら、すぐに掴まれちゃった。
「お前!ほんといい加減にしろよ!ちょっと聞いてくれたっていいだろ。」
「やだ。」
「なんでだよ!!」
「なんでって...私もうすぐ死ぬし...」
「だからなんだよ!!別に100%もうすぐ死ぬわけじゃないんだろ!!なんで諦めんだよ!最後まで足掻いてみろよ!!!」
頭に血がカッっとのぼるのがわかった。
「うるさいな!お前に何がわかるんだよ!何も知らないくせに!!いきなり...ある日突然。あなたはガンですって言われてみろよ!!日に日に悪くなっていって、薬も効かない!わかる!?新しい薬を使う度に淡い期待と希望持って効かなくてどんどん悪くなっていって、絶望する。疲れたんだよ!!死にたいんだよ!!だから、だから、生きたいって、幸せになりたいって思うようなこと...しないでよ!!」
あっヤバイって思った。何がヤバイって発言もヤバイけど、私の体ね...クラクラして、次の瞬間、景色が真っ暗になった。
あきっ!あきっ!!おい!!!しかりしろよ!!!あきっあきー!!!!
どこか遠くからゆうが必死に叫ぶ声が聞こえた。
次に目を覚ますと、ゆうが泣きそうな顔で心配そうに私の顔をのぞきこんでいた。
「あき...ごめん...俺知らなかった。お前がそんなに追い詰められていること....ごめん...ごめん....ほんと...」
なんでコイツ加害者ヅラしてんだろう。何も悪くないのに...私のほうがずっとひどいこと言ったし、ひどいことしたのに...ほんとお人好し...無駄に責任感じて謝って馬鹿みたい。
「あや...ま..で...よ..」
喉が痛い、声がかすれてうまく話せない。
「でもっ俺が言ったから...」
「だか..ら...ゆうは...悪くないんだって....謝らないで..」
話しづらそうにする私にゆうは水を飲ませてくれた。ほんといい奴なんだよな。
「なぁ、あき、俺、お前に死んで欲しくないよ。勝手なのはわかるけどさ、生きるの疲れたとか死にたいって言わないでくれないか?」
うん、そうだね。私も死にたくないよ...本当は生きていたいよ...また、学校行きたいよ...なんでかな、涙が止まらなくて、声が出なくなちゃったん。
そしたらゆうは、ぐすぐす泣く私のことを、精一杯気遣ってくれたよ。そして私はいつの間にか寝ちゃった。久しぶりにいい夢を見たよ。
また目を覚ますとゆうがいたんだ。私が寝ているあいだにおそらく数日は過ぎていると思うんだけど。え?なんでかって?私の服やゆうの服が変わっているからだよ。ということは、ゆうは、毎日来てくれたのかな。
「おはよ。3日ぶりだな」
私が寝ているあいだに3日たっていたらしい。私にとっては、ちょっと前のこと何だけどな。不思議。
「ん..おはよう...。」
少し混乱している私を見て、
「あき、3日前....さっきの話の続きいいか。」
三日前の話の続きといいかけて、さっきの話の続きって言いなおしてくれるあたり、やっぱりゆうは、優しいなって思う。
「うん。」
「あのさ...その...俺、あきのこと好きだ。」
二回目の告白、未遂を含めたら3回目。
「うん....。ありがとう。」
ずるいよな...うん。ずるい...。こんなこと言われたら何も言えないよね。今からでも遅くないかな。今からでも真っ直ぐ向き合ったら....私は....わたしは....
身勝手だけど許してくれるかな。
「あの...ゆう...私本当はゆうのこと好きなの...大嫌いじゃなくて、大好きなの。ヘタレでドン臭くて、お人好しで、でも、すっごく優しくて、カッコ悪くてもカッコ良くて、ずっと、ずっと、一番になれたらいいのにって思ってた。だから、好きだって言われたときすごく嬉しかったの....でもね...怖かった。だって、生きるの諦めてたから...だから、怖かった。未来のこと、怖かった。必死に死ぬことから目を背けてきたのに、好きだってその言葉だけで、先を見ちゃうから、でね...その先には自分はいないんだって思うと....悲しくて、悔しくて...むな..し.くてぇ...」
そこから先は言葉にできなかったんだ。だって、涙が止まんないんだもん。ホントもうやだな。ゆうが来てから私泣いてばっかでさ。笑っちゃうよね。
「そっか...ありがとう。両想いだったんだな。ずっと。もっと早く言ってればよかったな。ごめんな。でも、まだ、助からないわけじゃないだろ?それに諦めてたって過去系だったってことは、今は諦めてないんだろ?病はきからって言うし、きっと治ると思うんだ。だから、その。俺ができることあったら、協力するから!だからその全力でなおして...えっと...俺と付き合ってください!!」
本当にずるいな。ずるいから意地悪しちゃおうかな。なかされてばっかりだし。
「治らないと付き合えないの?」
「そうじゃなく..その..」
案の定ゆうは、慌ててた。
「冗談だよ...ゆう。」
くくくと笑ったら、ゆうは、安心したような、怒っているような..微妙な顔をした。
「おっお前..ひでぇ...」
アハハ、なんて笑いあってすごく幸せだったな。
この数日後くらいかな、新しい薬の投薬が始まったよ。不作用は半端じゃないね。でも、苦しんだだけ効果はあったみたい。回復の方向に向かってるって...でもまぁすぐに効かなくなると思うよ。いつものことだしね。だけど、期待は期待はしてたんだ。なのに...残酷だよね....とうとう投薬やめられちゃった。もう、治らないところまできちゃったみたい。先生も看護婦さんも何も言ってくれない。それどころか、退院するんだって...やだな...まだ生きていたいな....せっかっく両想いになれたのに...明日は先生の所に行かなきゃ、嫌だな。
どんよりとした気持ちで、先生のところに言ったら、
「おめでとう。よく頑張ったね。」
って言われたんだ。何言ってんだろコイツって思ったね。その後も、なにか言っていたけど、全然頭に入ってこなかったよ。でもどうやら、私の病気は治ったみたいだよ。
こっちとしては、もう半年過ぎたし、手の施しがないようなところまできちゃったと思ってたからさ、びっくりしちゃった。
話が終わって外に出ると、ニンマリした顔をしたゆうがいた。絶対こいつ知ってたな。ムカツク。
「あき!おめでとう!!」
「お前、知ってたな...嫌いだバーカ。」
「なんでだよ!?知ってたけどそこまで怒らなくてもいいだろ!?」
「うっさい、バーカバーカ。」
やっと、普通に流れていた、日常に帰って来れたんだなって、思ったよ。
再発する可能性は0というわけじゃないけど、取りあえず病気が治ったので、まぁ...あれだよ ...察して。
みんな長々と私の話を聞いてくれてありがとうね。どこかで私のこと見かけたら声かけてね。バイバイ!!
読んでくださってありがとうございます。