吸血の銃
古代ヨーロッパのとある農村。
少年アルカはいつもの様に農業に勤しんでいる。
季節は夏、毎年のようにトマトを取っている。
「ふいー。毎年の事ながら面倒ですね」
「面倒くさいとかいうなよ」
「ですが~」
「さぁ、王都にさっさと出荷する用意をしろ」
「ふぇい」
慣れた手つきで、王都に向けて車を走らせた。
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道中、道の真ん中に一人、赤髪少年が立っている。
急ブレーキをかけ、車を止める。
「少年何をしている?ここ道路の真ん中だぞ」
「貴様誰に向かって口をきいている?この、吸血騎士団の騎士だぞ」
「……だとしても、道の真ん中に立っているのは変じゃないですか?」
キレやすい体質のアルカは頭に血が上っていた。
車から降りて相手に近づく。
「オイ……アルカ」
「貴様ら~……処断するぞ」
ホルダーから銃を抜き、銃を構える少年。
「《処刑執行》だ。起動……」
「この野郎」
完全に一触即発状態。
「待て、アクラ」
二人の間に一人の男が割って入る。
「《処刑執行》は認められていない」
「団長……」
「申し訳ない。農家の旦那」
「いやいや、こちらも不祥事があったようだ。騎士団長。コイツをどうぞ」
「こいつはトマトか。好物だ……好意をいただこう」
「さて、アクラ。引き上げるぞ、ここは異常ないようだ」
「了解……」
「「我が血を以て、力と為せ。吸血銃起動」」
銃の噴射口から赤い炎を噴出し空を飛び始める二人。
「吸血騎士団団長とその団員……」
「昔、俺等を助けてくれたやつとは大違いだったな」
「昔と言っても数10年も前でお前がガキの頃の話だがな」
その昔、アルカの住んでいる村に大規模な襲撃があった。
その際、当時は規模こそ小さかった戦力は彼らを凌駕する騎士団が助けた。
それが現在の「吸血騎士団」。
「さて、さっさと王都に向かうぞ」
「へい……」
「我が血を以て、力と為せ:吸血車起動」
信号もない農村の道は格好の高速で走れる道路であった。
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空を飛んでいる二人。
「兄……団長」
「うん?」
「彼奴らから、《属性》反応がありませんでしたね」
「言われてみればそうだな……確かあの道の方角は」
「ウテケネス村だな」
「あの村って……昔派手なことが在ったらしいですね」
「『血戦戦争』だ。覚えておけよ。あれは、もう酷かったな」
「?」
「血で血を洗い、眼前の光景は肉塊と鮮血のみと……思い出すだけで吐き気がする」
「すみません……王都、見えてきましたね」
数分飛んで王都に到着した。
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「農家の親父さん、今年も有難う~」
「おう……さっさと納品手続きしてくれ」
「いや~、相変わらず色、形がきれいだ」
褒めながらも手続きを始める。
「お待たせ、アルカ」
「うん?」
「ほれ、手伝え。あと一件。使えよ」
「……我が血を以て、力と為せ。吸血筋起動。ふん‼」
持ち上がらない。というか全然動いてさえもいない。
「なんでだ!?クッソ」
「キレるな……やはり普通通りだな」
「普通通り、と言わないでくれ」
「さて、ここでやることは終わった……次行くぞ」
車にさっさと乗り込み準備を始める。
その時遠くの方で爆発音が聞こえる。
『警告:吸血鬼狩人の出現が確認されました。避難を開始してください』
「あっちの方角は俺らには関係ないな」
「吸血銃……持ってる?」
「何?……お前向こうに行く気?」
「……役には立たないだろうけど、なんかできるはず」
真っすぐこちらを見るアルカに手持ちの吸血銃を渡す。
「お前じゃ、使えないだろうから……石弾持ってけよ」
「お……う……」
「危険だと思ったらさっさと戻って来いよ。死んだら面倒なんだから」
「生きて戻ってくるから心配ないって」
そう言って爆発があった地点に向けアルカは走り始めた。
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「この爆発は……」
「賊のやった愚かな行為だ……全く生々しい」
他の団員よりも一足早く到着したアクラ達。
「まぁ、戦争と比べれば大したものではないが……」
「敵が見当たりませんが……」
「警戒は怠るな。まだ近場に居るかもしれん」
「「我が血を以て、力と為せ。吸血銃形態変化」」
ホルダーからアクラは一丁の紅い銃を出す。
団長は赤黒い一丁の銃を構えた。
「【銀弾】に当たった時はすぐに対処しろ、我々二人なら対処可能だ」
「了解です」
「目の前しか見てないな……後ろからの攻撃にはどう?」
アクラの背後に1人の男が現れる。
「【銀短剣】で死ね」
一度も振り返らず、刺されるアクラ。
「やったぞ。これで、俺も階級上昇だ……」
「誰がやったて?」
「‼?」
そこには天敵である銀製のナイフで倒れたはずのアクラが立ち上がっていた。
「生憎、オレは銀が利かない属性持ちなんでね……」
「ならば……直接戦闘するのみ」
「アクラ、助太刀は……」
「大丈夫です」
「銀の剣で来たか……当て辛くはなるが弾丸で削て行くか」
『我が熱き血を以て、天敵を焼く、力と為れ:戦闘制御解除』
「全力で喰らってやるよ……」
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「おっかしーな……こっちのはずだったのに」
道に迷い市街をふらふらしているアルカ。
「動きすぎて貧血だな……ん?」
正面右の方から音が聞こえる。
「あっちに行ってみるか、避難しきってない人もいるだろうし」
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「どこに消えやがった……」
「はははっ……笑いが止まらん。弱い、徹底的に喰らい尽くしてやろう」
目で捉えきれない速度で移動するアクラ。
時折飛んでくる弾丸を銀の剣で防いでいるが、既にボロボロで使い物にならない。
「此奴の属性は……」
「第一は≪火≫、第二は≪熱≫属性だ。」
「道理で刃が解けるようになくなっていくわけだ……なら此奴はどうかな?」
男は瓶を取り出し、中に入っていた水を自分にかける。
「【聖水】か……」
「その通り、これなら吸血鬼の使う類の術は一切効かない」
「面白い……」
しかし、状況は意外と不利。
何せ弾丸、と言うか攻撃全てが利かないのだから。
「あ~……戦闘してる。俺も混ぜてくれないか?」
少し離れたところから先ほどの少年が歩いて来る。
「貴様、騎士団員でもないのに割って入ってくるな」
「うるさい……これでも喰らえ」
銃から飛んでいくのは石。
しかし、威力は低く当たった相手は、
「ははは……何の真似だ、お前から刈ってやる」
「げ……こっち来るな」
銀のナイフを刺されて倒れるアルカ。
「だから、言ったのだ……」
「あ~~~……いって~~~」
何故か倒れたはずのアルカハ直ぐに起き上がりナイフを素手で抜いた。
「お前な~、人にナイフ向けるなよ。そんで刺すとか……痛いんだぞ」
「なぜ……貴様も吸血鬼のはず」
「?いや、確かにそうだけど……微妙に違うか。まぁ、いいや……どうして欲しい?」
「はっ……ならこれでも」
ナイフがだめなら聖水をと瓶のまま投げる。
頭に当たり砕ける。本来ならば死亡のはずがアルカはまだ立ち続けていた。
「……お前さ、いい‼加減に‼‼しろ~‼‼」
『我が血を以て、天敵を砕く力と化せ』
「おぉ……此奴は?ついに来たか!言い残すことはあるか?」
銃口を相手の額に向け狙いを定めるアルカ。
「3~2~1……」
「【熱血弾】」
アルカの横から燃えている弾丸が頬かすめ敵に当たる。
「ぐ……熱い、体が……」
「そのまま灰になるまで、燃えていろ」
『奴の血を吸い上げ、更なる力と成せ:戦闘終了』
「お前……なにも燃やす必要は」
「あんな奴生かしておくだけ無意味だ、用が無いならさっさと……」
「用は大有だ、正当な任務だろうが、人殺ししている時点で、お前も似たようなもんだろ」
「……それが我らの務めであり責務だ。引き揚げましょう」
「いや待て、アクラ。少年……年に一度騎士団に入る機会がある」
「団長、何を言ってるんです!」
「少し黙っていろ。是非、一度受けてみないか?」
「OKです、次回っていつやるんですか?」
「次は確か、4か月と3日後だな」
「では、4か月と3日後に王都に来れば、試験が受けられるわけですね」
目を輝かせながら質問を続けるアルカ。
「団長いい加減に。もう撤退しますよ」
「あぁ……では少年、武運を祈るよ」
「はいッ」
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「なぜ、あんな奴の……勧誘まがいなことをしたんですか?」
「彼の能力が知りたくなった。それだけだ」
「確かにおかしい所が何カ所か有りましたが……」
「精査してからでも遅くはないだろう」