表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

桃色dreamer's

ぎゃくてんせーしょうじょ

作者: 三宮祐吏

 家から学校まで自転車で5分。たったその距離で私は、


 変人を見つけた。


 思わず私は自転車を止めた。だってそうだろう。学校と家との距離が1キロはなれているかしかいないところで、しかもここは住宅街。住宅街ならではのすべりだいと鉄棒しかない小さな公園に、髪が真っピンクの人間がいるんだから。いや、それだけだったら止めなかったかもしれないけど。

 ピンク毛の女の子が、なにやらなきめできょろきょろと辺りを見回しているのだ。

 ええー。いまどきデスメタルでもあるまいし、一部メッシュとかじゃなくて、なんかもう染めちゃった感じになってるし。コスプレをしてるんかなぁなんて最初は思ったけれど、そう言うのって現地でするものかと思ってた。しかも服は普通だし。

 あまりにも不躾に視線を送り続けたせいか、彼女も私に気がついた。あ、やばい。地雷踏んだ。これ踏んだ。

「あーっ、いっけなーい。遅刻しちゃーう」

 わざとらしく腕時計を見て、つかまる前に自転車を漕ぎ出して、私は逃げた。


 ***


 ちなみにその子はその後も2・3日朝あの公園にいた。帰ってくるときもいた。

 さすがに二日目の帰りに離れたもので、何とか彼女を見ずにスルーすることが出来た。こうして私の平和は守られたのである。


 って。そこで終わりなんかじゃなくて。土曜日。

 なんだかずっと所在無さげにあの公園にいて、彼女は補導されなかったのだろうか。って言うか近所じゃみたことない。

 ずっといるんだよなー。不審者だよなー。なんて考えて、さすがに今日はいまいと様子を見に行くことにした。いたら通報してあげよう。なんて善人だ私。

 で、公園に来てみれば、いた。

 滑り台の上で泣きそうな顔をして、体育座りしていた。なんだか小動物っぽかった。一瞬可愛いなぁなんて思ってしまったが、駄目だ。通報しよう。この公園地味に子供が遊びに来るのに、このピンクがいるおかげで誰もいないもん。

 そう思って、ケータイを取り出す。ぴっぽっぱって数字を3つ押して、耳に電話を押し当てる。

 と、音に気がついたのか、ピンクが私を見た。その瞬間、すべりだいをズササササーって音とともに滑って私にダイビングしてきた。

 あまりものすばやさに、通話をきってしまった。そして腕ごとがっちりとホールドされる。

「助けてくださいっ」

 とても女の子とは思えないような力の強さで、彼女は言った。


 ***


「わたし、佐藤結唯(さとうゆい)って言います」

 善人なわたしは、とりあえず自分の家に彼女を連れてきてあげた。だって人だかりが出来てきてなんか仲間扱いされそうだったし。わたしが一人暮らしでよかったな。

悠木千里(ゆうきちさと)と言います」

 ジコショウカイ、ダイジネー。

「あの。いくつか質問していいですか?」

「わたしも質問したいけど。まぁさきにどうぞ」

 ありがとうございます。にっこりと相手を緩やかな気分にさせる笑みの後に、

「ここって、どこですか?」

 そう、のたまった。

「はい?」


「ここどこですか?」

「……。館林のはずれですが」

「たてばやし……?」

 えー。知らないの館林。なんかショックー。

「じゃあえっと、瀬戸内秀吉(せとうちひできち)って人、知りませんか?」

「瀬戸内海……? えなに、そっちのほう出身なの? 家出にしたら思い切ったね」

 知るか、そんな個人名。そう突っ込みたかったが、意思疎通が今は出来ている。この子を家に帰すために、情報が必要だ。うん、警察に引き渡したっていいけど、穏便に済ませる方針。

「じゃ、じゃあ、五十畑圭介(いそはたけいすけ)先生は?」

「なんかサッカー選手っぽい名前だね。うちの学校には、そんな人いなかったと思う」

 高校の先生なんてごまんといるわ!

「……小林和志(こばやしかずし)くんは」

「そんなお笑いユニット、聞いたことないね」

「いや、人の名前なんです」

「知らないね、うちのクラスにいる小林君の下の名前は、太郎だし」

阿原瑛(あはらてる)くんは……」

「いや、そんな個人名あげられても知らないよ」

 濁点付けると、あばらでる。なーんて。はっはっは。

 ……なんか意思疎通の雲行き怪しくなってきたな。

八女啓司(やめけいじ)さんは!」

「知るわけないっての!」

「ですよねっ」

 何故かニコニコ顔で賛同された。

 やっべー。電波拾っちゃったわたし!? えー。いまさら家からどうやって追い出そう。可愛いけど、電波は困る。可愛ければなにしても許されるってワケじゃない。どうか穏便に、瀬戸内海にでも帰ってくれないだろうか。

「とりあえず。住所教えてくれるかな? お母さんに連絡取らないといけないし、ね?」

 ザ・オネエサンスマイルー。

「群馬の、滝川市です」

 そんな地名あったか?

 思い出すように考えるが、出てこない。って言うかなんで群馬出身なのに館林しらないんだよ。

「お母さんの携帯番号、わかるかな?」

「えっと。060-1234-5678」

 まった。060で始まる電話番号はない。070までしかない。どうしよう会話のキャッチボールできない。


 本気で警察にでも引き渡そうかと頭を悩まし始めた頃。くうぅ~っと間抜けな音がした。

 おなかがすいたんでしょうけれども、随分かわいらしいことだな。

 仕方がないのでお気に入りのレーズンバターロールをプレゼンツしてあげる。

「ありがとうございます」

 にっこり笑顔。

 それだけみてると、めちゃくちゃ可愛いんだけどね。だけれど、がっつくのはどうかと思う。もしかして3日間、何も食べてなかったのか? だからこんなにくいっぷりがいいのか?

 乙女なんだかそうじゃないんだかよく分からん。

 お口がべっとべとになって食べ終わると、わたしは無言で手鏡を見せてあげた。バターロールを少し暖めてあげるのは失敗だったらしい。ついでにさりげなくティッシュも出してあげれば、ごっしごし拭き始める。極端なやつめ。

「あの、わたし」

 お。今度はキャッチボールしてくれるか。よし、ドンとこーい。どんなたまでもうけとめてやんよ。

「乙女ゲームの世界から来ました!」

 とびっきりの笑顔で、彼女はそういった。

 そうかー。

 なんとなくそんな感じがしてたもんね。だって髪の毛ピンクだし、目も妙にキラキラしてるもんね。きっと乙女ゲームの主人公だったんだね。

 なんか本能的にすとんと納得できた。が、理性はそれを認めない。


 わたしは、無言でケータイのボタンを、3つ押した。


 ***


 結局慌てて止められたけれども、なにやらわたしは懐かれてしまったらしい。

 こうして悠木千里と佐藤結唯奇妙な共同生活が始まったのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 短編らしくまとまって、2人しか出てこないキャラクターそれぞれの雰囲気が可愛らしく表現されているところ。 千里ちゃんのキャラクターは一貫性があって、つっこみどころもなんだか共感できる、お話で…
[一言] 拝読しました。 私は乙女ゲームというのは未見なのですが、髪がピンクでデフォルトだったりするんですね…… 横道に逸れますが、二次元で髪色がとりどりでも違和感ないのに、リアルにカラーのウィッグ被…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ