超能力【前編】
創作です。前編、中編、後編と三部構成になります。
平日の十八時にもなると、埼京線は人で溢れる。
そんな中、私は座席の一番端の席という電車の特等席に座っていた。
電車の揺れは疲れが溜まった体に非常に心地が良く、私はうつらうつらしながらも何とか意識を保っていた。
こんなに疲れるならば昼間にあんなことをしなければよかった、と自分に腹が立った。
しばらくして、赤羽駅に着くという車内放送が聞こえてきた。
私はここで京浜東北線へ乗り換えなければいけない。
私は重い体を座席からなんとか持ち上げ、下車する人達の波に身をまかせ、開いたドアからホームに降りた。
その時だった。
女性の悲鳴と男性の怒鳴り声がホームに響き、パニックになった人の波が寄せてきた。
一瞬にして私はもみくちゃに押され、倒れそうになった。
一体何が起きたのかわからないが、喧騒の中に、
「人が倒れてるぞ!」
「駅員呼べ!」
「誰かあいつ止めろ!」
などと聞こえ、大体の状況を把握した。
どうやら、誰かが暴れ、それによって怪我人が出ているようだ。
状況を把握した私は人波を掻き分け、怒鳴り声のする方へ進みだした。
これだけの人がいて止められないような犯人なら、きっと何か刃物などを持っているのだろう。
対して私は丸腰。普通なら一目散に逃げ出す所だ。
だが、私は進む。なぜなら、勝算はあるし、助けられる人は助けておきたいからだ。
そして、少し進むと犯人らしき若い男を視界に捉えた。
ヨダレを垂らし、ナイフの様なものを振り回している。薬をやってるな。
私は周囲を確認した。
犯人の周りには少人数だが、私を含めた野次馬の塊がある。
これだけ人がいれば大丈夫だろう。そう判断し、私は再び男を見た。
そして次の瞬間、男の動きがピタッと止まった。
いや、正確には男の動きを止めた。
これが、私がナイフを持つ相手にも向かっていける理由。私には不思議な力がある。
俗に言う、超能力というやつだ。私は視界に入った者の動きを念じて相手を意のままに出来る。
次に、私は犯人の持つナイフを地面に落とすよう念じ、犯人はその通りにナイフを落とした。
そして、そのまま停止。
後は、このまま警察が駆けつけるのを待つか、誰かが押さえ込むまで停止しているだけだ。
が、次の瞬間、犯人の右腕がまるで雑巾を絞るように捻れた。
ホームに犯人の声にならない叫びと、それを見た野次馬達の悲鳴が響く。
私は目を疑った。何が起きたのかわからなかった。
私はそんな事、一切念じていない。
暴発を疑ったが、そんなはずはない。私が今更そんなミスをするはずはないのだ。
だが、目の前では今度は左腕が同じように捻れた。
私は混乱し、停止を解いた。が、しかし、それでも犯人の左腕が捻れ、悲鳴が響く。
なんだ、何が起きている。
私は今度は更に強く停止を念じた。
「くそっ…」
思わず声が漏れた。
犯人は今度は落としたナイフを拾い上げ、首に当てた。
『やめろ!やめろ!』
そう強く念じたが、次の瞬間、犯人は首から血飛沫を撒き散らしその場で息絶えた。
私はしばらく動けなかった。




