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やる気の方向とフワフワシッポの焦げ付き

人間はいません。獣人しかいません。

主人公もいません。作者の部活動がモデルです。


地響きと共に、後ろから大きな石像が迫り来る。ぽっかり大口を開けたそれは、前を走り逃げる獣人を食らおうとトンネルを削りながら進んでいく。

ゼェ、ゼェと息を切らして青いジャージのクセ毛ネコは石像から逃げるべく涙目で必死に駆ける。長い毛とポニーテールが一緒くたになって上下に揺れている。目つき、しっぽ、耳、全てで不満を訴え、ついには息の間から叫びだした。

「くっそぉぉぉ…こんなな、聞いてねえぞモっさん、…」

「もっと速く走って!追いつかれるよ」

ひいひい喘ぐクセ毛ネコとは対照的に、モッさんと呼ばれたネコはショートの髪をなびかせて涼しい顔で駆けて行く。後ろの石像から逃げられることを知っているようだ。

「アンタそれでもネコ科!?がんばんな」

「…っくしょお…アタシはなぁ…アタシはぁ…」

もはやほとんど泣きながら、クセ毛ネコは叫ぶ。

「アタシはイエネコ…!ノンビリ族だ、って、の!!!!」

「…もう…って、ちょっと!何してんのやめて!?こんな所でっ」

走りながらポケットに手を突っ込むと、クセ毛ネコは小さな黒いものを取り出した。

黒いものから出ているピンを口で引っ張りぬくと、それを石像に向けて投げた。

「う、うわああああ!!」

「へ…ざまぁ…」

全力で走りながら二匹は耳を塞いだ。

それでも聞こえる爆音は、石像とトンネルを一度に吹き飛ばしたようだった。



先ほど走っていた、優秀な方のネコ――モニカはほっぺたに絆創膏を張りながらため息をついた。

「…で、結局爆弾で…なんの意味もない練習になっちゃったよ…痛いし…」

「アハハ、モニカ…サべちゃんに根性求めてもさ」

りんごジュースを片手にモニカの愚痴を聞くのはザイダ。虎とヒョウの間のような模様で、髪を一つに結んでいる。気の強そうな印象だ。

彼女はフワフワのシッポを揺らせて先ほどの出来の悪い方のネコ、サビーネの耳に絆創膏を貼ってやっている。

「…そうだぞ、モッさん…アタシに根性は無いぞ…」

「それがサッちんの悪いトコ!諦める前にやるの!」

二段ベッドの下に体を横たえてぐんにゃりしていたサビーネは、うざったそうにシッポをばたばたさせながら寝返りをうった。

「いいじゃん、バクダン…「良くないよ」…なんでさ。せめて体力は妥協してくれ…アタシはお前らと違ってイエネコだ」

「それだけいい体格なんだからもっと動けるに決まってるじゃん!」

「…何度も言うけどね、アタシはラグドールと言ってね、愛玩動物として生まれたのよ、分かる?」

若干焦げたシッポの先を弄ってサビーネは不機嫌丸出しで毛布を被る。

「これだから情報弱者はイヤだ…ネコ図鑑くらいみなよね…アタシ寝るから、静かに頼むよ」

モッさんのせいで今日は何も出来やしなかったよ、と焦げたシッポを二人に向けてサビーネはベッドの上に付いたカーテンを引いてしまった。

モニカはとても不満そうに顔を顰めていたが、毛を逆立ててぶるりと震えると大きく息を吐いて机にひじをついた。

「モニカ、毎回我慢して偉いねぇ。あたいはムリだわ」

「いくら底辺チームでもリーダーだから…あんまり怒って空気かき乱しても悪いし」

それならムリヤリサビーネを連れ出さなければよかったのに、という言葉をザイダは寸でのところでジュースと一緒に飲み込んだ。

「モニカ…アドバイスしておくね…サビーネは本当に運動にはあんまり向かない種族だし、オセロットのあたいやライオンのあんたと一緒にするのは気の毒だよ」

「…けどさ!あんなに瞬発力があるのに、もったいなくて…」

「確かにだけど、バクダンで十分じゃね?」

「ううーん…でもバクダンだけだと、前衛がやられたときにさ」

サビーネはベッドで二人の会話をぼんやり聞きながら、明日の練習に出ない言い訳を必死に考えていた。


サビーネが本当に眠りかけていたとき、『NEKOROOM』と書かれた扉がこつこつノックされた。

「はーい…あ、ツィー」

「エヘへ…サビちゃんいる?」

ザイダがドアを開けた先に立っていたのは、無謀にもネズミであった。

ネコの部屋に飛び込んでくる小さなネズミ、なんと滑稽であろう。

「今さっき寝ちゃったよ」

「あー…サビちゃんを起こすのは危険かなぁ…」

「…もう起きちゃったよ…何?ツィツィ」

実はたいして小さくないネズミ、ツィツィーリアは丸い耳を触りながら、機嫌の悪そうなサビーネに一冊のノートを差し出した。

「ハイ、交換ノート。ぼく、今回のは良い出来だと思うよ」

「おお!そういえば取りにいくっつって連れ出されちゃったからな…ありがとう!」

ノートをぺらぺら捲ると、サビーネは一発で機嫌を直しツィツィーリアの頭をがしがし撫で回した。

その手をやんわり退けると、ツィツィは自分の部屋『NEZUMIROOM』へ帰っていった。

「んふふふ、いいねぇいいねぇ」

受け取ったノートをイスに腰掛け眺めるサビーネの目は三日月形に歪められており、心底楽しそうだ。

「見せてー」

「ダメだよーん、んふふふ…じゃあ続きを書こうかなー、邪魔しないでねぇ、んふふ」

サビーネはにやにやしながらイスから飛び降りると、またごちゃごちゃしたベッドにもぐり込んでしまった。

ノートを見られなかったザイダは残念そうにシッポを丸めながらりんごジュースを飲み下した。

「何かいてるんだろうなー…」

「あの二人だからね、どうせエロい絵でしょ」

「えぇー、それだったら尚更見たい!」

けど今入ったら確実に殴られるだろうなぁ、とザイダは自分の欲望とたたかい、結局見ないことにしたようだ。

自分の武器である付け爪の手入れを始めた。

「はー…私も寝る」

「うん。上?」

「うん」

モニカはハシゴを使って、2段ベッドの上に乗り上げて毛布を被った。

乗っかるときにわざと飛び乗り、ベッドを大きく軋ませると下からサビーネの悲鳴が上がった。

大人気ないなぁと思いながらもそれを口には出さず、ザイダは一人りんごジュースのパックをへこませた。

ここの獣人は

髪という独立した毛がある

二足歩行

です。

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