6 手紙
あのあと、わたし達はまたたくさん話した。どこを引っ越したのとか、どうしてここに来たのとか。実幸は全部、父の異動だったが、この町に来られて引っ越したのも初めて嬉しくなった、と言っているそれがうれしくて、わたしはすぐに、また話を始めた。
「わたしの名前ってさ、真希って言うじゃん。真実の真に希望の希。何でこの漢字なの? って聞かれたら、単純に真実に目をそむけずに、希望に満ちて生きろ、って言われたの。単純だなーって思ったんだけど、そんな意味が名前に込められていて、なんか嬉しくなったんだ。……実幸は聞いたことある?」
「わたし? ……わたしも、あることはある。わたしって、みゆきって名前なのに、美しいに雪とか、美しいに幸せとかじゃないじゃん。わたしは実に幸せでしょ? ……どっちかって言ったら、美しいに幸せが良かったんだ。でも、意味を聞いたら真希みたいにホント単純で、「幸せが実るように。」なんだって。……ま、意味聞いたらこれでもいいかな~とか思ったりしてるんだよね」
「うん。そうだよね。わたしも思う時あるよ」
その時、実幸の瞳が何か影って見えたのは気のせいではなかった。
あれから、一週間。やはり、実幸は引っ越した。父の、異動だった。ぽつりとあいた、実幸の席が何だか寂しく見えた。もっと二人で思い出をつくりたかった。
夏祭りからの一週間で、わたし達はさらに仲良くなった。メアドも、住所も、携帯の番号も全部交換して、すぐに連絡が取れるように。いつでも会いに行けるように。わたし達は、親友なのだ。友達なのだと示し合わせて。
夏休み前の学校最後の日、家に帰ると誰もいなかった。両親は共働きで母も今働いているのだろう。弟も部活だ。ポストを開けると、一つの手紙が入っていた。
『加藤真希様へ』
裏を見るとこう書かれていた。
『短い間だったけどありがとう。紫原実幸より』
うっすらと涙が出た。中身には、わたしへの思いと、今までの思い。夏祭りの時には話してくれなかった、何回転入しただとか、友達の、作っても別れてしまう悲しみとか、実幸の気持ちが長々と書かれていた。
一番最後はこう締めくくられていた。
『わたしの友達になってくれてありがとう。わたしの一番の友達になってくれてありがとう。面と向かって言ったらきっと恥ずかしくて言えないけど、この短い間、本当にお世話になった。これからもよろしく。大好きな真希へ』
涙があふれて、わたしは枕に顔を疼くめた。今迄に感じたことのない、言葉では表せない寂しさを感じた。
これが1年前のわたしと実幸との夏の日の出来事です。実幸が元気でやっていると、きっと新しい街でできたのだろう友達との写真を同封して送ってきてくれた手紙は、あの日から約1年がたった、今年の夏でした。
名前の話を書きたかったんです。
この6話で真希サイドは終わりです。次の6話は、実幸サイドで。