4 夏祭り
夏休みの一週間前。海の日に、ここ、峡守では祭りが開かれる。その名も、《峡守祭》峡守の守り神を信仰する祭りで、神輿が出る。地元で一番の大通りで行われる。夜まで騒いで、花火も打ち上げられる、峡守の代表的な祭りだ。
その祭りに、わたしは実幸を誘った。浴衣で、という条件付きで。
7月16日。海の日。学校は臨時にでも休みになり、外で騒ぎ立てる。あくまでも中二なのだが、わたしは背が低いため小六に見られることが多い。だが逆に、実幸は一六十以上は身長があり、高校生に見えるだろう。はたから見たら姉妹に見えるのかもしれないとか思いながらも、ゆっくりと祭り独特のふわふわした雰囲気を楽しむ。
「ね、焼きトウモロコシ買おっ!! 150円だし!」
「えっ、高いよ。私は、100円の買わない」
何気に金欠な実幸を知り驚いた。100円は100円で安すぎやしないか。
実幸は、紺色にひまわりの絵が描いてある浴衣を着ていた。私は、白地に大輪の朝顔柄だ。結構かわいいと思っていたが、実幸など絶句してしまうほどかわいかった。いつもは降ろしているのに、上で一つに団子にしている髪型もかわいい。綿あめ持ってればどこぞのモデルかと思えるほどだ。
「花火上がるよ! 実幸、わたし穴場知ってるんだ~」
「え、どこ?」
「こっち~」
そういって、実幸の右手を引っ張る。実幸は、左手に綿あめを持っていた。(気づかないうちに買っていた。どうやら50円の激安綿あめを見つけたらしい)向かうべき場所は、ここから少し離れた海に近い小さな丘の上だ。
「ほら」
見えるでしょ? そう言おうとして、言葉に詰まる。実幸の――まるで初めてそれを見るような――瞳が肩やいている顔を見たからだ。なんというのだろうか。こう、新しいものに目が眩んでいる小さい子供。キラキラしていて、あれが欲しいという無言の頼み。そんな顔だ。きっと今までまともに見たことがないのだろう。そう思うと、何とも苦しくなる。
実幸の隣に立って、そっと手を握った。実幸も握り返してきた。
峡守町はフィクションです。架空の町です。
なんかこれ書いていると、両思いだけど微妙な関係の男女を書いている気分です。