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夏の日の出来事  作者: 夕部空波 
真希の気持ち
3/12

3 仲直り

 あれから三日経った。ただでさえ人見知りな(きっとそうだと思う)実幸に、何かいけないことを言ってしまった。三日は口をきいていない。


 少し実幸と離れていた時に聞いた話だがクラスの皆からの実幸の評判はあまり良くなかった。女子曰くかわいいからって調子に乗るな。男子曰く話しかけても無言で無表情。本当に人間か? と言い、見かけ倒しだと嘆く。

 ろくに話したこともないクラスの(やつら)が想像で実幸を語るんじゃない。そんなことを思って、自分が実幸のことが大好きになっているのに気付いた。美人が故のいじめなどを受けてきたのかもしれない。


 実幸はまた静かになった。静かに読書していた。周りの風景に溶け込んで元から居なかったように存在が薄くなっていった。時々視線を感じることもあった。しかし、なんか悲しくて、寂しくなった。そういえば、転入日に『またすぐ引っ越してしまうので』と、そう言っていた。どういう意味なのだろうか。周りの友達に先生に聞いてみた。


「あー、それ? うん、うちも気になって先生に聞いてみたんだ~。そしたら確か、『お父さんの仕事の都合で、ひっきりなしに引っ越しているらしいのよ。』だってさ。」


ふーんと返事をして、実幸を見る。引っ越しているということはいろいろな場所を転々として、学校もすぐに変わってしまう。そして実幸はその変化になじめないのかもしれない。


「それって、いつからか分かる?」

「あ、うん。分かる。えっとね、確か小学生、一、二年生からだと思うな」


あ、そうか。一瞬で理解した。実幸のあの態度を。色々な所を、あっという間に転校してる。だから、もしかしたら、“友達”っていうのを知らないのかもしれない。友達を作ったことがないのかもしれない。そう思った。だから、わたしは……。


 わたしは実幸に話しかける。一番初めの、一番初めにかけたあれみたいに。ただ、一番初めは謝ろう。


「ごめん。なんかわからないけど、わたし、無神経なこと言った、よね」


机の前に、しゃがみ込む。顎が机に乗るくらいまで。実幸の顔は見れなかった。勝手に解釈して勝手に謝って、実幸は困るかも知れない。


「……別に。真希は悪くないと思う」


実幸の声だった。少し、つんとしている。


「わたし、自分勝手だからさ。あの時なんか嫌な感じがして。あの時もその、勝手にだまってわたしの方こそ、えとごめん」


実幸が答えてくれた。いつも通りの――でも少し低い――声で。少し照れているような声色も交じっていてこれはわたしに初めて見せてくれた表情で嬉しくなった。思わず、抱きしめた。

 実幸の方に光ったものが見えた。ああ、泣いているのか。力いっぱい抱きしめる。その涙の意味はなんなのか、何ともいえない実幸の不思議な表情を見た。

 そして、自分の気持ちをぶつけた。


「ごめんね!! ホントごめん! わたしも、聞きたいこと聞いてさ。なんか何も教えてないよね。何も、わたしのこと知らないよね。ごめんね。無神経なこと聞いて。勝手に……」


 自然と涙が頬を伝った。ああ、わたしも泣いてしまう。みんなの視線が刺さった。実幸にとっては迷惑かも知れない。

 最後のほうは泣いてしまった。その涙を拭いて、強く抱いて、今度の夏祭り一緒に行こうと誘った。実幸は笑顔でOKを出してくれた。


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