2 仲良く
あれから一週間が経った。7月の頭に引っ越してきた紫原さんは、やはり友達を作る気などない様だ。周りの皆もそれでいいのか――いや、一番初めの自己紹介で感じが悪くなったのか――必要最低限言葉は使わなくなっている。なんか嫌だった。学級委員は、そういうクラスをまとめなきゃとかそういう気持ちはあるのだろう。しかし、紫原さんは紫原さんで周りの風景に溶け込み友達をつくり気もなく、クラスに馴染もうとするわけでもない。一人が好きなんだという空気を出しているので学級委員さえも近寄りがたいのではないだろうか。でもなんとなく、ただの勘であの子はそう悪い子でもないということを思った。そしてあの子と友達になるのだという気持ちは日が増すごとに強くなっていった。
そしてわたしは一つの決心をした。思いっきり相手に絡むのだ。必要以上に話しかけ――それはもう、うざったいと逃げられるほど――絡む。いつか、相手もその通りに反応してくれて、友達になれると思う。安易で安っぽい考えではあるが今のわたしに思いつく最大の発想であった。仲良くなりたいのだ。ヨシッと気合を入れ、一週間と一日を置いて、わたしは実幸に話しかけた。
「ねぇねぇ、紫原さん。転校する前はどこにいたの?」
本を読んでいる彼女に話しかける。相変わらず近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。というより、暗いというか。萎んでいるというか。わたしの存在を認めないみたいに、思いっきり無視だった。
「ねぇ~教えてよ。じゃさ、趣味は? 読書? いつも本読んでるし」
「……」
無視だ。あーもう、じれったい。なんかこう、もっと、いっぱい話してみたいのにさ、ともどかしさにあふれる。
「あなた、名前は?」
初めて、紫原さんが話しかけてくれた。何とも愛想のない言葉だったがなんか嬉しくて
「わ、わたし!! 加藤真希っていうんだ!」
大声で自己紹介をしてしまった。教室にいた皆の視線を集めなんか恥ずかしいが、大きな進歩はあったと思う。その日はそのまま、かなりテンションが高いまま家に帰り寝た。
次の日もその次の日も、一週間たっても、わたしは性懲りもなく話しかけた。何してるの? 何が好きなの?と。相手も、それに応えてくれるのか、――それとも話すことでわたしから逃げるためなのか――結構しゃべってくれるようになった。それがまた嬉しいと感じている自分がいることに気付いた。
実幸はかわいかった。もともと美人さんなのに、話をしてそれに対して笑っていると、時々抱きしめたくなるほどかわいくなる。頬にできる小さなえくぼも引き立てるポイントなんだろう。なんというのか、本当にかわいかった。
そんなある日、わたしはふと思ったことを実幸に聞いてみることにした。
「ねぇ実幸。何で転入早々に、〝仲良くしてくれなくていいです”なんて言ったの? おかしいじゃん」
それを聞くと実幸は黙ってしまった。何かいけないことを言ったのか、黙りこくった。もう少しで休み時間は終わってしまう。
「実幸? ……」
話しかけても何も答えてくれなさそうだった。目が少し冷たくなった気がする。
この一言で、この数日の努力が粉々に砕け、無くなってしまったようだった。
短いです。