12 手紙
最終回です。目を通して頂き有難う御座いました。
わたしのあの言葉の後にも、真希とはいろいろなことを話した。わたしの今までの人生とか、真希のこととか。たくさん知った。けどやっぱり、わたしは引っ越すんだと思い、悲しくなった。この町に来られて、引っ越したのも初めて嬉しくなった。そう言うと真希は嬉しそうになぜか頬を少し赤くした。
「わたしの名前ってさ、真希って言うじゃん。真実の真に希望の希。何でこの漢字なの? って聞いたら、単純に真実に目をそむけずに、希望に満ちて生きろ、って言われたの。単純だなーって思ったんだけど、そんな意味が名前に込められていて、なんか嬉しくなったんだ。……実幸は聞いたことある?」
「わたし? ……わたしも、あることはある。わたしって、みゆきって名前なのに、美しいに雪とか、美しいに幸せとかじゃないじゃん。わたしは実に幸せでしょ? ……どっちかって言ったら、美しいに幸せが良かったんだ。でも、意味を聞いたら真希みたいにホント単純で、「幸せが実るように。」なんだって。……ま、聞いたらきいたでこれでもいいかな~とか思ったりしてるんだよね」
くだらなくはない。けど、もう、別れる時が近づいている。そう思うと、こんな話さえもわたしと真希をつなぐものだと感じてしまう。いいんだよね、そう感じて。無性にそう問いたくなる。
――わたしみたいなのが、友達を作っていいんだよね。
って。だから、嬉しいよ。真希。嬉しいんだ。
あれから一週間。やはり引っ越すことになる。どうせだから、と。わたしは真希に手紙を残す。今迄の気持ちも、真希への気持ちも、すっと、素直に。ペンを動かす。
『紫原実幸です。急に手紙なんてびっくりした? でも、もうわたし引っ越してるから、もう話せないからね。メアドも、住所も、携帯の番号も知ってるけど、あんまりあてにならないよ。とくに住所はね。
夏祭りの時に言ったけど、わたし、本当に、本当に、真希に話しかけられた時、嬉しかったんだ。わたし、今迄友達なんていなかったし、それにね、話したこともなかった。同年代の人と。先生との話し方も、どうすればいろいろな先生に気に入ってもらえるのか、とか。ホントくだらないことばっかり、覚えていったんだ。
わたしね、なんか吹っ切れてさ、もう友達なんていらないって、そう思ってたんだ。だって、一つの町に来たって、すぐに違う町に引っ越しちゃうから。友達を作ったって、すぐに引っ越しちゃうから。すぐに無駄になっちゃうから。どうせ、わたしのことなんて、忘れちゃうと思ったから。だから、友達作らなくなったんだ。
お父さんの移動が多くて、小学生の間だけでも、15回以上の転校を経験している。中学では、すでに、4回引っ越してるの。お父さんは仕事でほとんどいないし、お母さんとも、そんなに話さないし。兄妹もいないから、遊び相手とかいなかったし。だから、本当にうれしかったんだよ。友達になってくれたことも、わたしに話しかけてくれたことも。短い間だったけど本当にうれしかったんだ。
仲良くなればなるほど離れるのがつらくなる。そう思ってた。それは間違いじゃないと思う。そんな理由から、わたし、友達をつくらなかった。だから真希。あなたがわたしの初めての友達だ。嬉しいんだ。本当に。楽しかったよ、真希。』
そこまで書いて、いったん筆を止めた。なんか、恥ずかしい。けど、本当の気持ちを。たった3週間足らずにわたしが感じたこの気持ちを、きちんと真希に伝えようと思った。
『わたしの友達になってくれてありがとう。わたしの一番の友達になってくれてありがとう。面と向かって言ったらきっと恥ずかしくて言えないけど、この短い間、本当にお世話になった。これからもよろしく。大好きな真希へ』
ちょっと苦笑いをしてしまって、誰が見てるわけでもないのに顔を赤くしてしまった。引っ越しは今日だ。今のうちに、きっと今は学校に行っているだろう真希の家のポストに届けよう。そして、これからも、わたしは真希の友達で、新しいところで新しい友達を作っていこうと。短い期間でも作れるだけ友達を作って、たくさんの人との交流を楽しもうと、そう思った。
わたしは1年後、また、真希の家に手紙を送った。
『元気にやっています』
その他にもたくさんのことを書いた。新しい街でできた友達との写真も同封して。
目を通して頂きありがとうございます。
引っ越したことはないですが、もしかして、私がこの立場に立ったとき、実幸と同じになるのではないかと思ったりします。友達って、結構重いものです。その町を離れる、未練というか、離れたくないと思ってしまう原因だったり。いろいろです。私みたいのが語るのはおかしいのでここら辺でやめますが、このお話を通して何かを思ってくれればうれしい限りです。
このお話を読んで頂きありがとうございました。