11 友達
夏祭りの帰り、わたしは今までに話したこともないぐらいに話倒した。楽しかったな、と思う。最後にこの町で思い出をつくれたな、とも。
最後の花火を思い出す。連続で上がって、金色で下に垂れるのだ。そして最後に、今までで一番特大の奴をドン!! と上げてきた。今まで感じたことがないような感動に包まれた。
「花火の最後、すごかったなー」
空を見上げる。花火の煙の残像がまだ残っていた。隣でプッと噴き出す声が聞こえる。
「なに? なんか変なこと言った?」
「いや、ただ、あんまり子供みたいな、抽象的な……」
抽象的って言われても。だって初めて見たんだもん。そんな言葉が思わず漏れた。真希はずっと笑いをこらえているのか、何かとニヤニヤしている。そこでふと思った。真希は、やっぱりずっとここに住んでいて、今日みたいに毎年誰か、友達と花火を見に来てるんじゃないかって。
「……ねぇ、真希ってさ、生まれてからずっとここに住んでるの?」
「えっ……うん。そうだよ」
思いがけず真剣な声音が出た。真希もそれ相応に応えてくれる。今かな。そう思った。何の前触れもなく、今なら、真希が話しかけてきたときの気持ちを、真希に伝えることができるかもしれない。口下手だけど、頑張れば。
「わたしね、真希が話しかけてくれた時、本当にうれしかったんだ。わたし、友達居ないから」
これはずっと思っていたことだ。真希は真剣にわたしの話を聞いてくれる。
だから真希が話してくれた時嬉しくて。でも名前を知らなくて。だから、わたしも話してみた。いっぱい質問してくるから。でもね、真希こういったよね。『何で転入早々に、〝仲良くしてくれなくていいです〟なんて言ったの?』って。わたし、今まで友達作ってこなかったんだ。ていうか、作れなかった。人見知りだし、話しかけられないし。それに作ってもすぐに、すぐに、わたしは転校して、きっと、作れた友達は私のことすぐに忘れる。一番の友達なんていないし、きっとこれからもできないと思ってたんだ」
わたしはずっとそう思って生きてきた。これからもずっとそうだと、本気で思っていた。だから嬉しかったのだ。真希の表情、声、優しさ。全てが嬉しかったんだよ。そう語りかけたい。なのに、言葉が詰まる。目の前が少し揺らぐ。
「でも、この町でできた。この町が好きなんだ。もう、離れたくないんだ。どうしたらいいのかな……」
「実幸……」
名前を呼ばれて、言葉が詰まる。これだけはきちんと伝えたい。そう言う思いがあるから、今、この時はなさ中れば、伝えなければならないと思った。もう、こういう機会は、訪れないのではと思ったからだ。
「いやでもきっと引っ越す。またすぐに引っ越しちゃう。だからさ、真希」
ん? と言う真希の声が聞こえた。待っていてくれていると感じた。その言葉が嬉しい。わたしを名前で呼んでくれてありがとう。まだ言いたいこといっぱいある。けど言葉が出ないよ。わたし、引っ越しちゃうんだ。だから、これだけ言いたい。これだけ、この答えだけ聞きたい。
「これからもずっと友達でいてくれる?」
「……もちろん!!」
真希は答えてくれた。笑顔で。わたしは家に帰ってから泣いてしまったのだ。