10 花火
夏休みの一週間前。七月十六日、海の日に夏祭りは開催されるそうだ。いつか母が着たという浴衣を引っ張りだし、着付けをしてもらう。髪は自分で上げて、浴衣とセットの髪飾りをつけた。
夏祭り会場は活気にあふれていた。そういえばきちんとした祭りに参加するのは、生まれて初めてかもぁなと思いながら、背の低い真希をかわいっと思う。
「ね、焼きトウモロコシ買おっ!! 150円だし!」
「えっ、高いよ。わたしは、100円のしか買わない」
別に高くないだろうが、わたしは今、300円しか持っていない。母からこれだけしかもらえなかったのだ。(もうお小遣いは上げたからね! と言われ、わたしのお小遣いは溜まっているが、豚の貯金箱なので割るしか道がなく、仕方ないということでもらったのが300円)何ともくだらないエピソードだが、その最後に、「実幸は目が優しくなったね」と言われた。今迄きつい目をしていたのかな? と少し疑問だったが聞かなかったことにする。今は目の前の、最後の、祭りを楽しもう。
「花火上がるよ! わたし、穴場知ってるの」
「え、どこ?」
「こっち~」
右手をとられる。左に持っていた綿あめ(50円)を落とさないようになんとか器用に走った。丘の上へ、だ。
ドンと花火が上がる。大きい。きれいだった。大きな音、光、輝き、がやがやとうるさい、祭り独特の雰囲気。目の前に大きな光が現れる。
「ほら」
そういって、真希は振り向いてくる。でもその続きの言葉はこなかった。初めての花火に感動して、真希の言葉が聞こえなかったのかもと少し後になってそう思う。大きな大輪の花火は、初めて見る。子供心に火がついたのかもしれない。ただ感動して、そこから一時も目が離せなかったのだ。
気が付くと真希が隣に立っていて、わたしの手を握る。中二なのに恥ずかしいと少し思ったが、真希のその気持ちが、暖かみが、優しさが嬉しくて、わたしも真希の手をそっとしかし力強く握った。
夏祭り。一応二人は中学2年生です。