第9話 人の価値は、数字では測れない
今日も2回目投稿、行きます!
ついにユージの隠された力が明らかになる、のか?
王城の高い天井を見上げながら、ユージは正直うんざりしていた。
(……で、何回目だよ、これ)
豪奢な謁見の間。
赤い絨毯。
左右に並ぶ貴族たちの視線。
そして正面――玉座。
しかしなんとなく、今回は空気がまるで違った。
「では、改めて確認しよう」
玉座の脇に立つ、白髭の魔道士の老人が、低く落ち着いた声で言った。
年老いてはいるが、背筋はまっすぐで、目だけが異様に鋭い。
「勇者ユージ殿。
あなたの“適性”を、正式に確認する」
ざわ、と周囲がざわめく。
ユージは内心、ため息をついた。
(また“測定”かよ……)
⸻
魔道士の老人が杖を軽く床に突くと、床に魔法陣が展開された。
淡く光る文様が、ユージの足元を包み込む。
「魔力測定――第二段階に入る」
「第二段階?」
思わず聞き返すと、老人は頷いた。
「前回は“量”だけを見た。
今回は――“質”を見る」
その言葉に、周囲の貴族たちが息を呑む。
「質、ですか」
「そうだ。
同じ魔力量でも、使い手によって価値はまるで違う」
老人はちらりと、貴族たちを見回した。
「魔力が多いだけで無能な者は山ほどいる。
逆に、魔力が少なくとも世界を動かす者もいる」
ユージは、どこか引っかかるものを感じていた。
(……この人、話がわかるタイプだな)
⸻
魔法陣が強く輝き、空気がピリつく。
「ユージ殿。
心を静め、“自分が何者か”を意識しなさい」
「……自分が、何者か?」
「そうだ。
勇者か?
戦士か?
それとも――ただの異世界人か?」
その問いに、ユージは一瞬、言葉を失った。
(俺は……)
脳裏に浮かぶのは、元の世界。
産廃屋。
仕事。
責任。
理不尽。
剣を振るう英雄でもない。
魔法を操る天才でもない。
――ただの、おっさんだ。
(……でも)
「答えは要らん。
思うだけでいい」
老人の声が、どこか優しかった。
⸻
次の瞬間。
魔法陣が、歪んだ。
「……なに?」
ざわめきが一気に大きくなる。
光は爆発的に広がることもなく、逆に静かに沈み込むように消えていった。
そして――
測定用の水晶が、ひび割れた。
「ば、馬鹿な……!」
老人が、初めて目を見開いた。
「魔力量は平均以下……
しかし……」
彼は、水晶の破片を見つめ、低く呟いた。
「……“干渉値”が異常だ」
「干渉値?」
「魔力で世界に“影響を与える力”だ。
数値化できるものではないが……」
老人は、はっきりと言った。
「この者は――
魔法体系の“外側”にいる」
場が、静まり返る。
貴族の一人が、苛立たしげに声を上げた。
「つまり、役に立たないということか?」
その瞬間。
「――違う」
老人の声は、鋭く、強かった。
「測れないということだ。
測れないものを、無価値と決めつけるのは愚か者のやることだ」
そして、ユージを真っ直ぐ見据える。
「勇者ユージ殿。
あなたは“兵器”ではない」
ユージは、思わず目を瞬いた。
「あなたは――
“変数”だ」
⸻
その言葉の意味を、
この場にいる誰も、まだ理解していなかった。
だが一つだけ、確かなことがある。
この男は、
剣でも魔法でもない方法で、世界を揺らがせる。
王城に、そんな予感だけが、静かに広がっていった。




