第8話 産廃屋のおっさん、会議に放り込まれる
異世界に召喚されてから、ユージは一つの事実に気づいていた。
――この国、やたらと会議が多い。
朝から晩まで、大小さまざまな会議が城内で開かれている。
軍事会議、外交会議、経済会議、宗教会議、そして――よく分からないがとりあえず集まる会議。
ユージは、豪華だが座り心地の悪い椅子に座らされ、半ば放心状態でその様子を眺めていた。
「では次に、異世界勇者ユージ殿の処遇について――」
「ちょっと待った!」
反射的に声が出た。
「え、俺の処遇? なにそれ聞いてない!」
場の空気が、一瞬で凍る。
重厚な円卓を囲む貴族たち、軍人たち、魔導師たち。
全員が一斉にユージを見た。
ナーチャンが、いつもの冷静な声で補足する。
「ユージさま。勇者召喚は国家機密です。処遇を決める会議が開かれるのは、当然かと」
「いやいやいや! 本人抜きでやるやつじゃないだろそれ!」
「ですから、今回は“同席”していただいております」
「ちがぁ〜う!
俺にも心の準備ってもんがいるってことよ!」
ユージは内心で叫んだ。
(俺、ただの産廃屋のおっさんだぞ?
なんでこんな王族会議みたいなところに放り込まれてんだ……)
そんなユージの隣で、魔道士っぽい老人が腕を組み、静かに口を開いた。
「結論から言いましょう。
ユージ殿は――“規格外”です」
「急に怖いこと言わないでくれる?」
老人は無視して続ける。
「魔力量は最低。戦闘経験なし。魔法適性も未知数。
しかし、発言と行動が、常に“想定外”を突いてくる」
「褒めてる? それともディスってる?」
「事実です」
淡々と断言された。
続いて、別の貴族が鼻を鳴らす。
「だが、戦えぬ勇者など役に立たん。
象徴として城に置くか、研究対象として管理すべきでは?」
「待て待て待て! 研究対象ってなに!?」
ナーチャンが、すっと一歩前に出る。
「反対です」
その一言で、空気が変わった。
「ユージさまは、単なる戦力ではありません。
むしろ――思考そのものが価値です」
「思考?」
「はい。
問題を“違う角度”から見る力。
それは、我が国に今もっとも欠けているものです」
ユージは、ぽかんと口を開けた。
(え、今の俺、評価されてる?
逃げ腰で適当なこと言ってるだけなんだけど?)
そこへ、リシュンが楽しそうに笑いながら口を挟む。
「まあ要するにさ。
ユージは“兵器”じゃなくて、“触媒”なんだよ」
「化学反応起こす的な?」
「そうそう。
放り込むと、周囲が勝手に動き出す」
「なにそれ怖い」
会議はしばらく紛糾したが、最終的に結論は一つにまとまった。
「――異世界勇者ユージは、自由行動を許可する」
「おおっ?」
「ただし、ナーチャンを監視役として常時同行させる」
「……ですよね」
ナーチャンが、にこりともせずに頷く。
「また、重要会議への参加を義務付ける」
「え、義務?」
「拒否権はありません」
「ありますよね!? 人権とか!」
誰も答えてくれなかった。
こうしてユージは、
・戦えない勇者
・権限は無い
・やたら会議に呼ばれる
という、非常に扱いづらいポジションに正式決定したのだった。
会議室を出たあと、ユージは廊下で大きく息を吐いた。
「……なあナーチャン。
俺、帰れるんだよな? ちゃんと元の世界に」
ナーチャンは少しだけ視線を逸らし、こう答えた。
「その件についても、今後“検討”される予定です」
「検討!? まだ確定じゃないの!?」
「はい」
「やだこの国!」
ユージの悲鳴が、静かな城内に虚しく響いた。
――こうして、
産廃屋のおっさんは、
否応なく“世界の中枢”に足を踏み入れてしまったのだった。




