第7話 誤解は、国境を越えてやって来る
本日2話目の投稿です!
その日、ユージは珍しく城に呼び出されていた。
「……なんか最近、呼ばれる頻度上がってない?」
廊下を歩きながらぼやくと、隣のナーチャンは否定しなかった。
「そうですね。
ただし、今回は少し……性質が違います」
「嫌な予感しかしないんだけど」
会議室の前で、ナーチャンは一度足を止めた。
「ユージ様。
くれぐれも、刺激しないでください」
「俺が?」
「はい」
ユージは深くため息をついた。
(また、俺が何かした扱いか……)
扉が開く。
中にいたのは、王女マイヤン、魔術顧問、軍師サム、そして――見慣れない人物。
黒を基調とした衣装。
鋭い目つきと、隠しきれない威圧感。
(あ、これ魔族だ)
ユージが即座に察すると同時に、相手もこちらを見た。
「……貴殿が、ユージか」
低く、落ち着いた声。
「はい。そうですけど」
軽く手を挙げるユージ。
場の空気が、一段階重くなる。
マイヤンが口を開いた。
「こちらは、魔王軍軍師にして、魔族領・北方監査官のサム=ハヤシオ氏よ」
「監査官?」
聞き慣れない肩書きに、ユージは首をかしげる。
「我々は、最近の交易地域の“異変”を調査している」
サム=ハヤシオは続けた。
「暴動が起きるはずだった地域で、何も起きていない。
治安部隊の増派もなく、魔法的介入も確認されない」
「それが?」
「原因が、“一人の人族”だという報告が上がった」
視線が、ユージに突き刺さる。
「……え、俺?」
思わず素で聞き返した。
「倉庫街、露店区画、港湾区域。
すべてに共通して、貴殿の名前がある」
ユージは頭を抱えた。
(またそれか……)
「誤解です。
俺、ただ話を聞いてただけで……」
「それが問題なのだ」
サム=ハヤシオの声が低くなる。
「我々魔族は、“力によらず場を制する者”を最も警戒する」
会議室が静まり返る。
「魔法でも、武力でもない。
だが、確実に流れを変える存在」
彼は一歩前に出た。
「貴殿は、何者だ?」
全員の視線が集まる。
ユージは、しばらく考え――正直に答えた。
「えっと……元・産廃処理業者です」
「……?」
「現場で揉め事多くてさ。
爆発する前に止めないと、死ぬから」
沈黙。
次の瞬間、軍師サムが咳払いをした。
「……非常に、実践的ですな」
マイヤンが頭を押さえる。
「つまり、あなたは無意識に“最適解”を選んでいると?」
「最適かどうかは知らないけど……
誰も怪我しない方が、後処理が楽だろ?」
サム=ハヤシオは、じっとユージを見つめていた。
やがて、口角がわずかに上がる。
「なるほど」
その表情に、ナーチャンが内心で警鐘を鳴らした。
(まずい……)
「我々は、貴殿を――」
サム=ハヤシオは、はっきりと言った。
「“観測対象”に指定する」
「え、やめて?」
「安心せよ。
今すぐ害するつもりはない」
むしろ、と続ける。
「興味深い」
その一言で、ユージは理解した。
(あ、これ完全にロックオンされた)
会議終了後。
廊下で、ユージはナーチャンに小声で言った。
「なあ……俺、なんかとんでもない方向に進んでない?」
「はい」
「即答やめて…」
「ですが――」
ナーチャンは、少し困ったように微笑んだ。
「今さら、元には戻れません」
魔族領。
その奥で、いくつもの視線が動き始めている。
ユージという名の、“測れない存在”を巡って。
本人が何も知らないまま、
世界は少しずつ、彼を中心に動き始めていた。




