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【完結】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う(新装版)  作者: アズマユージ


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第54話 試作機

ユージア国――研究棟地下区画。


地下深くに作られた実験室には、低く唸るような音が響いていた。


巨大な円形構造。


幾重にも重なる魔導回路。


床に刻まれた複雑な魔法陣。


その中心に、青白い結晶が浮かんでいる。


超高出力時空間転移機構。


リシュンは腕を組み、装置を見上げていた。


「出力、もう一回確認」


アルノルトが魔導端末を操作する。


水晶板に数値が流れる。


「位相同期、安定」


「空間歪曲率、許容範囲」


「座標計算……問題ありません」


リシュンはゆっくり息を吐いた。


「……マジで出来るかもしれねぇな」


アルノルトは冷静に答える。


「理論上は」


「ですが」


「理論と現実は別です」


そのとき。


ドンッ!


装置が一瞬だけ光った。


リシュンが飛び上がる。


「うお!?」


煙が立ち込める。


アルノルトが慌てて計器を見る。


「出力は安定しています」


「暴走ではありません」


煙の中から声がした。


「げほっ……」


二人が振り向く。


床の上に、ユージが転がっていた。


「痛ぇ……」


リシュンが目を丸くする。


「リーダー!?」


「いつ来た!?」


ユージは頭を押さえながら立ち上がった。


「いや、さっき来た」


「入口の段差で転んだだけ」


リシュンが装置を見る。


アルノルトも見る。


二人は顔を見合わせた。


リシュンが言う。


「……今の」


「転移じゃないよな?」


アルノルトが首を振る。


「違います」


ユージが眉をひそめる。


「お前ら今、何を期待した?」


リシュンが笑った。


「いや、ちょっとな」


「実験が成功したかと思って」


ユージが装置を見上げる。


巨大だった。


三階建ての家ほどの高さ。


無数の魔導線が絡み合い、光っている。


「……相変わらず」


「とんでもないもの作るな」


リシュンが肩をすくめる。


「リーダーの魔力がとんでもないんだよ」


アルノルトが補足する。


「通常の魔導炉では、出力が足りません」


「この装置は、あなた専用です」


ユージは苦笑する。


「なんか怖ぇんだけど」


そのとき。


研究室の扉が開いた。


ナーチャンが入ってくる。


「進捗はどうですか?」


アルノルトが答える。


「試作機は完成しました」


「現在、出力調整中です」


ナーチャンは装置を見上げた。


巨大な構造を、静かに観察する。


「……そうですか」


その視線は、ほんの一瞬だけ


中央の制御結晶に止まった。


誰も気づかないほど、わずかな時間だった。


リシュンが言う。


「リーダー、ちょっと来てくれ」


「魔力供給テストやる」


ユージが目を丸くする。


「え?」


「今?」


「そう今」


「早い方がいい」


ユージは装置の中央に立たされた。


床の魔法陣が淡く光る。


アルノルトが操作する。


「魔力導線、接続」


「位相同期」


「出力制限、二%」


リシュンが言う。


「リーダー」


「いつも通り魔力出してみて」


ユージが困った顔をする。


「いつも通りって言われても」


「魔力の出し方わかんねぇんだけど」


アルノルトが答える。


「意識するだけで構いません」


ユージは腕を組んだ。


「……こう?」


次の瞬間。


空気が歪んだ。


装置の結晶が一斉に光る。


計器の数値が跳ね上がった。


リシュンが叫ぶ。


「ちょっと待て!」


「出力制限二%だぞ!?」


アルノルトが急いで操作する。


「制御!」


「制御しています!」


魔法陣が眩しく輝く。


床が震えた。


ユージが慌てる。


「おい!」


「なんかヤバくない!?」


リシュンが笑った。


「いや」


「成功だ」


数秒後。


光が収まった。


静寂が戻る。


アルノルトが計器を確認する。


「安定しています」


「問題ありません」


リシュンが言う。


「見たか?」


「出力二%でこれだ」


ユージは目を丸くしていた。


「俺そんなに魔力あるの?」


リシュンが肩をすくめる。


「魔王の何十倍だ」


「自覚しろ」


ユージは頭をかいた。


「いや……」


「そんなこと言われても」


ナーチャンが静かに言う。


「ですが」


「帰れる可能性は高まりました」


ユージは空を見上げる。


地下なので何も見えないが。


「帰れる、か」


少しだけ沈黙。


リシュンが言った。


「完成まで」


「あと三週間」


アルノルトが頷く。


「出力制御の最終調整が残っています」


ユージは笑った。


「意外と早いな」


リシュンが笑う。


「俺たちを誰だと思ってる」


そのとき。


研究棟の窓から、遠くの街が見えた。


市場。


畑。


学校。


人々の暮らし。


ユージはそれを見て、ぽつりと言った。


「……でもさ」


「もし帰れたとしても」


言葉を止める。


リシュンが聞く。


「どうした?」


ユージは首を振った。


「いや」


「なんでもない」


ナーチャンはその横顔を、静かに見ていた。


その視線には、誰にも気づかれないほどの


わずかな不安が混じっていた。


研究室の中央。


超高出力時空間転移機構が、静かに光っている。


完成まで、あと三週間。


それは


一人の男が元の世界へ帰るための装置だった。


だが。


もしその日が来たとき。


彼は本当に帰るのだろうか。


それとも――


別の選択をするのだろうか。


まだ誰にも分からない。


ただ一つ確かなことは。


その選択が、この世界の未来を大きく左右するということだった。

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