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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ


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第52話 王国の変化

王都――政務室。


朝日が窓から差し込んでいた。


机の上には、書類が山のように積まれている。


マイヤンはその一枚をめくりながら、深くため息をついた。


「……信じられない」


隣に立つニシダトが眉をひそめる。


「何がですかな」


マイヤンは書類を机に置いた。


「税収よ」


ゲユタカが興味深そうに身を乗り出す。


「増えているのですか?」


マイヤンは頷いた。


「ええ」


「しかも、予想以上に」


サナディが腕を組む。


「軍費削減の影響では?」


ゲユタカが首を振った。


「それは歳出の削減であって、歳入増加の説明にはなりません」


書類を手に取る。


「交易量が増えている」


ニシダトが低く唸る。


「ユージア国との取引か」


「ええ」


マイヤンは椅子にもたれた。


窓の外には、王都の街並みが広がっている。


かつては、軍旗が翻る街だった。


だが今は違う。


市場が広がり、荷車が増え、商人の声が響いていた。


マイヤンは呟く。


「戦争をやめただけで……ここまで変わるなんて」


ゲユタカが言った。


「正確には」


「戦争を続けられなくなった、ですが」


マイヤンは苦笑する。


「ええ」


「ユージの罠ね」


ニシダトが机を叩く。


「罠などと!」


「我らが選んだのですぞ!」


サナディが静かに言う。


「選ばされたのだ」


重い沈黙。


マイヤンは目を閉じた。


思い出す。


あの日。


ユージア国で見た光景。


空に浮く巨大飛行戦艦ヤマット。


その周りを俊敏に飛び交うホワイトタイガー。


そして――


黄金の麦畑。


マイヤンは小さく呟いた。


「……負けたのよ」


ニシダトが驚く。


「王女?」


マイヤンは言った。


「戦争で負けた訳ではありません」


「ユージという男一人に、叩きのめされたの」


ゲユタカが静かに頷いた。


「確かに彼は戦わずして戦争を終わらせました」


「我々が百年かけて出来なかったことを」


「いとも簡単にやってのけた」


サナディが腕を組む。


「しかし油断はできません」


「ユージア国の軍事力は強大すぎる」


マイヤンは即座に答えた。


「いいえ」


三人が彼女を見る。


マイヤンは静かに言った。


「強いのは軍事力だけじゃない」


「ユージという男が引き起こす変化よ」


沈黙。


ゲユタカが小さく笑った。


「確かに」


「彼一人で、三つの国家構造を変えましたからね」


ニシダトが低く唸る。


「恐ろしい男だ」


マイヤンは首を振る。


「そうね」


「タスクフォースは、私が作った組織だというのに…」


「まんまと乗っ取られてしまったわ」


そう言って、遠くを見つめる彼女の美しい顔からは、


感情が抜け落ちていた。


そして言った。


「でも本当に恐ろしいのは」


「彼が、それを自覚していないことよ」


再び沈黙。


サナディがぽつりと言った。


「……確かに」


そのとき。


扉が叩かれた。


「失礼します!」


若い官吏が駆け込んできた。


「報告です!」


マイヤンが顔を上げる。


「何?」


「王国南部の農村ですが――」


息を整えながら言う。


「耕作放棄地の再開発が進んでいます!」


ニシダトが驚く。


「何だと!?」


官吏は続けた。


「ユージア国から農具が輸入され、灌漑技術も導入されています!」


ゲユタカが目を細めた。


「もう動いたか」


マイヤンが問う。


「収穫予測は?」


官吏は震える声で言った。


「三年以内に……戦前の生産量を回復する見込みです」


部屋が静まり返る。


百年。


百年続いた戦争で荒廃した土地。


それが――


三年で回復する。


マイヤンはゆっくりと立ち上がった。


窓の外を見る。


王都の空は、青かった。


マイヤンは小さく笑った。


「……悔しいわね」


ニシダトが聞く。


「何がです」


マイヤンは答えた。


「私が召喚した勇者が」


空を見る。


「私の国を、私より上手く救ってしまったことよ」


ゲユタカが静かに言った。


「ですが王女」


「これは王国の敗北ではありません」


マイヤンは振り返る。


「ええ」


「分かってる」


そして言った。


「これは」


「新しい時代の始まりよ」


その頃――


ユージア国。


丘の上。


ユージはくしゃみをした。


「へくしっ!」


ナーチャンが振り向く。


「風邪ですか?」


ユージは首を振る。


「いや」


頭をかく。


「なんか今、誰かに悪口言われた気がする」


ナーチャンは微笑む。


「案外気のせいじゃないかもしれませんね」


「あなたは今、時の人ですから」


「何言っちゃての、そんな大層なもんじゃねえよ」


そう言ってユージは空を見上げた。


白い飛行機雲が、青空に伸びている。


「……まあ」


小さく呟く。


「平和で、みんなが笑って過ごせるなら、それでいいんだけどな」


しかし、


遠く離れた王都でも。


魔王城でも。


そんなユージの評価が、どういう訳だか以前にも増して


うなぎ上りになっていることを、


まだ彼は知らない。

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