第50話 ユージア国誕生秘話
ユージア国建国から、三日。
かつて「特区」と呼ばれていたこの土地は、もうその名では呼ばれていなかった。
ここは今――
ユージア国だ。
国となったその土地は、以前よりもさらに忙しくなっていた。
朝。
市場はすでに人で溢れている。
王国の農民。
魔族の職人。
獣人の商人。
種族も国籍も関係ない。
同じ畑で働き、同じ市場で商売をしていた。
「すげぇな……」
丘の上から街を見下ろしながら、ユージが呟く。
「三日前に建国したばかりだと言うのに」
「まるで100年前から栄えていたような気がする」
隣でナーチャンが微笑む。
「人は希望のある場所に集まるものです」
下ではサトータが忙しく走り回っていた。
「鍛冶ギルドは南区画!」
「農耕組合は西区画へ!」
「交易商会は中央市場を使用してください!」
次々と組織が作られていく。
その隣ではイコタンが帳簿を抱えていた。
「通貨流通量を調整します」
「交易税は三%」
「ただし初年度は免除します」
「皆さん、張り切って稼いでください!」
商人たちが歓声を上げる。
少し離れた場所。
リシュンとアルノルトが巨大な魔導装置を調整していた。
中央にあるのは――
魔導演算機、通称「愛ちゃん」
ユージア国の民意を解析し、政策を提案する国家中枢だ。
リシュンが言う。
「民意解析、開始」
装置が光る。
アルノルトが結果を読み上げた。
「現在の優先政策」
「第一位、灌漑拡張」
「第二位、道路整備」
「第三位、学校設立」
ユージが目を丸くする。
「マジで民意出てる……」
リシュンが笑う。
「リーダーが言った通りだ」
「民が何を望んでるか分かれば」
「政治は簡単になる」
ユージは腕を組んだ。
「俺そんなこと言ったっけ」
アルノルトが頷く。
「言いました」
「覚えてないだけです」
そのとき。
後ろから声がした。
「相変わらずですね」
振り向く。
そこにいたのは――
サムだった。
ユージが驚く。
「お前まだ帰ってなかったのか」
サムは静かに笑う。
「もう少し観察を」
周囲を見渡す。
市場。
畑。
工房。
そして演算機。
「驚くべき国家です」
ユージは頭をかく。
「そんな大げさなもんじゃないって」
サムは首を振る。
「いいえ」
「これは歴史上初の政治実験です」
そして静かに言う。
「ところで」
「一つ疑問があります」
ユージが首を傾げる。
「何?」
サムが聞いた。
「なぜ国名が“ユージア国”なのです?」
一瞬。
沈黙。
ユージは困った顔をした。
「いや……」
「それな」
ナーチャンと神楽耶が目を逸らす。
サムが不思議そうに見る。
ユージが言った。
「俺は反対したんだ」
「でも、タケシトが強引に…」
その瞬間。
遠くの広場から声が響いた。
「そう!俺だ!」
タケシトが手を振っていた。
「国名なんて覚えやすい方がいいだろ!」
「リーダーの名前でいいじゃん!」
ユージが叫ぶ。
「俺はまだ認めてないからな!?」
神楽耶が笑う。
「だが皆賛成した」
ナーチャンも頷く。
「他に無いじゃないですか」
サムは小さく笑った。
「なるほど」
「英雄の名を冠する国家」
ユージが慌てる。
「違う違う!」
「英雄とかじゃないから!」
サムは静かに言った。
「ですが」
「あなたが異世界から召喚されていなければ」
周囲を見渡す。
「この国は存在していません」
「マイヤン王女も、たまには良いことをしますね」
ユージは言葉に詰まる。
風が吹く。
黄金の麦畑が揺れた。
サムは最後に言う。
「良い名前です」
「ユージア国」
そのとき。
遠くの空で白い軌跡が走った。
ホワイトタイガー。
平和な空を守る牙。
ユージは空を見上げる。
そして呟いた。
「……なんか」
「とんでもないことになってきた気がする」
ナーチャンが微笑む。
「いえ、ユージさまの思いを具現化しただけです」
神楽耶が言う。
「じゃが」
二人は街を見る。
子どもたちが笑っている。
市場が賑わう。
「悪くない世界じゃ」
ユージは頷いた。
「そうだな」
この国はまだ小さい。
だが確実に――
世界を変え始めていた。




