第49話 王なき国
昨日は、操作を間違って一日2話投稿してしまいました(^_^;)
今日からまた、一日1話投稿目指して頑張ります!
魔王国への帰路。
夕暮れの街道を、黒塗りの馬車がゆっくり進んでいた。
空は茜色に染まり、遠くの丘には黄金の麦畑が広がっている。
つい数日前まで戦場だった土地とは、思えない光景だった。
馬車の中で、魔王アサダは窓の外を眺めていた。
静かな声で言う。
「不思議ですね」
隣に座る軍師サムが顔を上げる。
「何がでしょうか」
アサダは微笑んだ。
「百年続いた戦争が終わったというのに」
「世界は、あまりにも静かです」
サムも外を見る。
遠くの空を、白い軌跡が横切った。
ホワイトタイガー。
特区の戦闘機部隊だ。
「平和というのは」
サムが言った。
「戦争よりも、ずっと静かなものです」
アサダは小さく頷いた。
しばらく沈黙が続く。
やがてアサダが口を開いた。
「国王のいない国、ですか」
その言葉に、サムがわずかに笑う。
「なるほど、考えたものですね」
アサダは腕を組んだ。
「しかし」
「君臨し統治する存在がいないと」
「意思決定が出来ません」
「ただの烏合の衆になるのでは?」
サムはゆっくり首を振った。
「普通は、そうなります」
少し間を置く。
「ですが」
「彼らは違う」
アサダが興味深そうに目を細める。
サムは続けた。
「政権運営の本質とは何か」
「それは――」
「民意をいかに正確に把握するかです」
アサダは静かに聞いている。
サムは窓の外を指した。
「王国も魔王国も」
「最終的な判断は、少数の人間が下しています」
「王」
「魔王」
「あるいは貴族や将軍」
アサダは頷いた。
「ええ」
「それが普通です」
サムは小さく笑う。
「ですが、そこには大きな問題があります」
「民の声が届くまでに」
「歪む」
「遅れる」
「あるいは消える」
アサダが言う。
「確かに」
サムは続けた。
「ユージ殿は、その問題を」
「根本から解決しようとしている」
アサダの瞳が少しだけ動く。
「どうやって?」
サムは答えた。
「魔導演算機――AIです」
「無数の情報を収集し」
「膨大な民意を解析し」
「最も合理的な判断を導き出す」
サムはゆっくり言う。
「つまり」
「国家の意思決定を」
「人間ではなく、情報に委ねる」
アサダが小さく息を呑んだ。
「……なるほど」
サムは続ける。
「想像してみてください」
「数百万の民意を」
「瞬時に、正確に把握する存在を」
馬車の中が静まり返る。
サムは断言した。
「それはもはや」
「王を超えます」
「魔王をも」
「超える」
アサダは小さく笑った。
「恐ろしいですね」
「ええ」
サムも頷く。
「ですが」
「同時に素晴らしい」
少し間を置く。
「これは、史上初の政治実験です」
「王でもなく」
「独裁でもなく」
「衆愚政治でもない」
「民意そのものを統治にする国家」
アサダは窓の外を見る。
夕焼けの空。
その向こうに、遠くヤマットの影が見えた。
「……あの方は」
静かに言う。
「どこまで考えているのでしょう」
サムは少しだけ考えた。
そして答える。
「おそらく」
「すべて」
そのとき。
馬車の外から声がした。
「ユージ殿!」
ユージがひょいと顔を出す。
「何?」
アサダが言った。
「サムが、あなたの国の仕組みを説明してくれました」
ユージが首を傾げる。
「へ?」
サムは簡潔に説明した。
AI政治。
民意解析。
意思決定機構。
ユージは黙って聞いていた。
説明が終わる。
沈黙。
そして。
ユージの肩が震えた。
「……やべぇ」
小さく呟く。
「そんなヤバいもん作っちまったのか、俺」
ぶるっと震える。
サムの目が光る。
「なるほど」
「武者震いですか」
アサダが頷く。
「覚悟の震えですね」
ユージは慌てた。
「違う違う違う」
「普通に怖いだけだから!」
だがもう遅い。
護衛兵が叫ぶ。
「ユージ殿が先頭に立たれる!」
「おお!」
「さすがだ!」
ユージ
「だから違うって!」
兵士たちは盛り上がっている。
サムは小さく笑った。
アサダも笑っていた。
夕焼けの街道を、馬車は進む。
その先には、新しい時代が待っていた。
そして――
誰も気づいていない。
その中心にいる男が、
ただ普通に怯えているだけだということを。




