第48話 ユージア国誕生
和平締結式の歓声が、まだ広場を包んでいた。
百年続いた戦争は終わった。
だが――
式典は終わらない。
サトータが一歩前へ出た。
「皆様」
静かな声が広場へ広がる。
「続いて、第二の式典を執り行います」
広場が静まる。
王国席。
魔王国席。
両国の首脳はすでに内容を知っている。
書簡で通告されていたからだ。
それでも――
その瞬間を前に、空気は張り詰めていた。
サトータが宣言する。
「ユージア国建国式を開始します」
ざわめき。
ユージが前へ出た。
いつもの調子だった。
「えーと」
頭を掻く。
「まあ、そういうわけで」
軽い。
あまりにも軽い。
「ここは今日から国になる」
特区の民から歓声が上がる。
王国席。
マイヤンは腕を組んだままだ。
表情は複雑だった。
怒り。
悔しさ。
そして――
諦め。
ゲユタカが小さく呟く。
「国家機能は既に整っています」
ニシダトが低く唸る。
「軍事、財政、食料……」
サナディが目を伏せる。
「否定は難しいでしょう」
マイヤンは何も言わない。
ただ、ユージを睨んでいる。
一方。
魔王国席。
アサダが静かに微笑んでいた。
「不思議な方です」
サムが小さく頷く。
「ええ」
「戦争を終わらせた上で国家を創る」
「歴史でも例がありません」
ユージが続ける。
「名前は――」
少し胸を張る。
「ユージア国」
歓声。
旗が掲げられる。
青い旗。
中央には麦穂。
その瞬間。
サトータが次の書面を掲げた。
「続いて」
「ユージア国基本統治構造を発表します」
王国席。
マイヤンが目を細める。
「……聞きましょう」
サトータが読み上げる。
「ユージア国は国王を置かない」
ざわめき。
ユージが補足する。
「一人に権力集中するとロクなことにならない」
王国席の空気が微妙になる。
ユージは気づかない。
「だから政治は分担」
「民意代表」
「専門官僚」
「そして魔導演算機」
リシュンが腕を組む。
「AI政治だ」
アルノルトが補足する。
「最適解を算出します」
ナーチャンが微笑む。
「ただし最終決定権は人です」
サムが感心したように言う。
「合理的です」
アサダが頷く。
「とても」
そして。
サトータが最後の文書を掲げた。
「続いて」
「対外関係」
広場が静まる。
王国も魔王国も
既に知っている内容。
だが。
正式宣言の瞬間だった。
「収穫の四分の一を王国へ貸与」
「四分の一を魔王国へ貸与」
静寂。
誰も驚かない。
代わりに
重い空気が流れる。
ゲユタカが低く言う。
「戦争を止めれば返済可能」
ニシダトが唸る。
「続ければ破綻」
マイヤンが吐き捨てる。
「完璧な詰みね」
サムが静かに言う。
「戦争のインセンティブが消えました」
アサダが微笑む。
「素晴らしい設計です」
ユージは小声でナーチャンに言った。
「……怒ってない?」
ナーチャンが答える。
「怒っています」
イコタンが続ける。
「ですが拒否できません」
ユージは頭を抱えた。
「なんで俺が黒幕みたいになってんだよ……」
そのとき。
サトータが宣言する。
「以上をもって」
「ユージア国建国を宣言します」
鐘が鳴る。
空では
ヤマットが静かに旋回していた。
ホワイトタイガーが雲を裂く。
黄金の麦畑が風に揺れる。
この日。
世界に新しい国が生まれた。
王でもなく。
魔王でもなく。
ただ未来のために存在する国。
その名は――
ユージア国。
だが。
誰もが理解していた。
世界の秩序は
静かに書き換えられたのだと。




