第47話 百年戦争が終結した日
朝の光が、黄金の麦畑を照らしていた。
広場には、すでに数万人の人々が集まっている。
王国の使節。
魔王国の使節。
特区の住民。
そして各地から集まった商人や観測者。
皆が見つめていた。
中央の演壇。
そこには三つの旗が掲げられている。
王国。
魔王国。
そして――
ユージア。
鐘が鳴った。
低く、重い音。
ざわめきが静まる。
司会役のサトータが前に出た。
「ただいまより――」
声が広場に響く。
「王国と魔王国による和平締結式を執り行います」
静寂。
まず、王国側が現れた。
マイヤン。
その後ろにニシダト、ゲユタカ、サナディ。
王国の最高指導部が並ぶ。
続いて――
魔王国。
魔王アサダ。
その隣に軍師サム。
重厚な鎧を纏った魔族の護衛が続く。
そして最後に。
サトータが静かに言った。
「特区代表――」
「ユージ」
ざわめき。
ユージが演壇へ歩く。
いつもの服。
いつもの歩き方。
神楽耶が遠くから呟く。
「本当にあの格好で出るつもりか……」
ナーチャンが微笑む。
「彼らしいです」
演壇の中央に三者が並んだ。
王国。
魔王国。
特区。
百年続いた戦争の当事者。
その中心に立つのは――
異界から来た男。
ユージは周囲を見渡した。
ものすごい数の視線。
「……多いな」
ぼそっと呟く。
マイヤンが小声で言う。
「あなたが呼んだんでしょう」
ユージは肩をすくめた。
「祭りは派手な方がいいんだよ」
サムが静かに観察している。
(この男は……)
(この状況でも変わらない)
サトータが宣言する。
「王国代表、マイヤン殿」
マイヤンが前に出た。
広場を見渡す。
そして静かに言った。
「王国と魔王国は、長きに渡り戦い続けてきました」
「互いに多くの血を流し」
「多くの命を失いました」
一瞬、言葉が止まる。
遠くの麦畑を見る。
「しかし今日」
「その歴史に終止符を打ちます」
続いて――
魔王アサダ。
若き魔王は、ゆっくりと歩み出る。
「魔王国としても」
静かで柔らかな声。
「これ以上の争いを望みません」
「この土地に流れる水のように」
「我らの未来も、穏やかに流れることを願います」
人々が静まり返る。
そして。
サトータが言う。
「最後に――」
「特区代表」
「ユージ」
ユージが前に出る。
頭を掻いた。
「えーと」
少し考える。
マイヤンが横で呆れる。
サムは興味深そうに見ている。
ユージが言った。
「まあ、要するにだ」
広場が静まる。
「もう戦うのやめようぜ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
笑いが起きた。
そして拍手。
ユージは続ける。
「ここに水が流れて」
「畑ができて」
「飯が食えるようになった」
遠くの麦畑を指さす。
「これ、燃やしたらもったいないだろ」
さらに笑いが広がる。
「だからさ」
「もう奪い合うのやめて」
「一緒に育てればいい」
少し肩をすくめる。
「それだけの話だ」
沈黙。
そして――
大きな拍手。
広場が揺れた。
サトータが宣言する。
「それでは」
「和平条約の署名を行います」
机が運ばれる。
三つの署名欄。
マイヤン。
アサダ。
ユージ。
ペンが走る。
最後に。
三人が署名した。
その瞬間――
鐘が鳴った。
高く。
強く。
そして。
広場が歓声に包まれる。
百年続いた戦争は、
この日、
終わった。
上空では。
ヤマットが静かに旋回していた。
その周囲を、
ホワイトタイガーが守っている。
誰もが知っていた。
この平和は――
偶然ではない。
丘の上。
神楽耶が静かに言う。
「終わったの」
ナーチャンが頷く。
「ええ」
そして小さく笑う。
「でも」
「本当の始まりは、これからです」
その視線の先。
演壇の上。
ユージが困った顔をしていた。
「なあ」
マイヤンに言う。
「次、建国式なんだけど」
マイヤンが眉をひそめる。
「……本当にやるのね」
ユージは首をかしげる。
「書簡に書いてあっただろ?」
マイヤンがため息をつく。
「読んだわよ」
少し間。
「でも普通は冗談だと思うでしょう」
サムが小さく笑う。
「残念ながら」
「この男はそんな冗談は言いませんよ」
「我々が冗談と思うほど、とんでもないことを
平気な顔で言うだけです」
アサダが静かに頷く。
「ええ」
「ユージ殿は、本当に世界を変えるおつもりです」
風が吹く。
三つの旗が揺れた。
次に訪れるのは――
新しい国の誕生。




