第45話 魔力再測定
魔王国より届いた書簡は、思いのほか簡潔だった。
「古の勇者より奪取せし魔力測定装置を保有している。
一度、正式な測定を試みてはどうか」
それを読んだリシュンが、ぴくりと反応した。
「古の勇者……?」
サムの補足説明によれば――
それは数百年前、異界より召喚された勇者との戦いの末、
魔王国が戦利品として回収した測定装置らしい。
この世界の水晶測定器よりも、遥かに精密。
異界由来の魔力にも対応可能。
「つまり、俺と同じ“異界の存在”を測れるかもしれないってことか」
ユージは首をかしげる。
「でもさ、俺、前に測ったよな? ゼロって言われたぞ?」
ナーチャンが静かに言う。
「その時の水晶は……ひびが入りました」
「ああ、あれな。俺のせいにされたけど」
半信半疑ながら、ユージはサムの提案に乗ることにした。
数日後、魔王アサダとともに、軍師サムが特区に姿を見せた。
持参した測定装置をセットしながら、ユージに問う。
「何か、魔力の流れを阻害するようなものを身に着けていませんでしたか?」
「いや、特にそんなだいそれたものは……」
少し考えて、ぽんと手を打つ。
「あ、作業用の皮手袋してたわ。怪我防止用の」
リシュンとアルノルトが同時に顔を上げる。
「それだ」
「それですね」
「間違いない」
ユージがぽかんとする。
「は?」
アルノルトが説明する。
「異界生物の革製品であれば、この世界の魔力干渉を遮断する可能性があります」
リシュンが続ける。
「しかも、あんたの魔力が普通じゃなかったとしたら」
サムが静かに結論を出した。
「想定外の反応が出ることは、容易に想像できます」
――そうこうするうちに、
古代魔力測定装置の設定が完了した。
黒曜石のような外殻。
中心に浮かぶ、青白い結晶。
魔力を流した瞬間――
空間が、歪んだ。
数値が跳ね上がる。
跳ね上がるどころではない。
振り切れた。
「……あり得ません」
魔王国の技師が震える。
サムの目が、わずかに見開かれる。
「魔王陛下を……桁で上回っています」
アサダが静かに息を呑んだ。
「わ、わたくしより……?」
表示された属性。
火でもない。
水でもない。
闇でもない。
『空間属性』
この世界では、ほとんど確認例の無い希少属性。
しかも――出力値が異常。
リシュンが低く呟く。
「普通の魔導装置に流したら……暴発するな」
アルノルトが頷く。
「制御機構が前提から違います」
ユージは腕を組む。
「で? つまり?」
全員が沈黙する。
サムが静かに言った。
「あなたは――この世界の規格外です」
ユージは笑った。
「またまた大げさな」
危機感ゼロ。
その姿に、サムの評価はさらに跳ね上がった。
(この男は――意図せず世界の均衡を握っている)
(しかも、自らの価値を理解していない……)
(だからこそ、恐ろしい)
その夜。
特区の研究棟。
リシュンとアルノルトが、机に向かっていた。
「……やるか?」
「ええ、理論上は可能です」
机の上に置かれた図面。
それは以前、冗談半分で描いた構想。
超高出力時空間転移機構。
膨大な魔力を一点集中させ、
空間を局所的に折り畳み、
別座標へ跳躍する装置。
ただし。
必要魔力量――
「計算上、ヤマットを1年間稼働させ続けることが出来る量だ」
「現実的ではありませんでした」
だが今。
「リーダーの魔力なら、理論値に届く」
二人の目が、輝く。
翌朝。
リシュンがユージに図面を見せた。
「これが完成すれば、あんたは元の世界に戻れるかもしれない」
一瞬の沈黙。
ユージの目が見開かれる。
「マジで?」
「理論上はな」
「よし、じゃあいつも通りパパッと作っちゃってよ」
軽い。
あまりにも軽い。
リシュンが苦笑する。
「リーダー、さすがにそれは無理だぜ」
「いままでの装置とは訳が違う」
アルノルトが補足する。
「出力制御機構だけで、数万の演算が必要です」
リシュンが腕を組む。
「まあ、そうだな……2~3か月ってところだな」
ユージは少しだけ残念そうに肩を落とす。
「そっかぁ」
そして、にやりと笑う。
「じゃあ、建国式が終わってからだな」
軽い。
あまりにも軽い。
だが。
研究棟の片隅で。
ナーチャンは、完成予想図をじっと見つめていた。
「……」
誰にも聞こえない声で、呟く。
「まだ、帰らなくても……よろしいですよね」
夜の灯りが、静かに揺れていた。
――装置完成まで、あと数か月。
その間に。
世界は、新しい時代を迎えようとしていた。




