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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ


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第44話 選ばされた平和

王都――緊急会議室


偵察報告は、すでに共有されていた。


希望のイージス。

巨大飛行戦艦ヤマット。

ホワイトタイガー。


軍事的均衡は崩れた。


だが、真に重いのはその次だった。


封蝋が割られる。


マイヤンが書簡を開く。


静かに読み進め――


「……やられたわ」


低い声。


ニシダトが身を乗り出す。


「何がです」


マイヤンは書簡を机に置いた。


「貸与よ」


室内がざわめく。


ゲユタカが読み上げる。


「収穫の四分の一を貸与とし、和平継続の場合は五年据え置き、以降十五年分割返済……戦争行為発生時は供給凍結……」


サナディが眉をひそめる。


「借金、ということか」


「ええ」


マイヤンは冷静だった。


「でも続きを読みなさい」


ゲユタカが即座に計算を始める。


静寂。


やがて顔を上げた。


「軍費を三割削減し、農政と商業に振り替えれば……五年で自立可能」


ニシダトが低く唸る。


「つまり?」


「戦争をやめれば、返せる」


沈黙。


サナディが問う。


「続ければ?」


ゲユタカは即答した。


「破綻します」


重い空気。


マイヤンが小さく笑う。


「選択肢を奪ったわけじゃない」


「正しい選択しか残していないのよ」


ニシダトが苦々しく言う。


「……戦をやめろと?」


マイヤンは首を振る。


「戦を続ける余裕を奪ったの」


完全な詰み。


軍事でなく、理性で。


そのとき。


ゲユタカがもう一通を開封した。


読み上げる。


「和平締結式を特区にて開催」


「同日――ユージア国建国を宣言する」


沈黙。


そして。


「ふざけないで!」


マイヤンが立ち上がる。


玉座の前で地団太を踏む。


「何様のつもり!?」


「王国の特区よ!?」


「それを勝手に“国”ですって!?」


机を叩く。


「軍を持ち、穀倉を握り、今度は国家宣言!?」


「王国の影響圏から完全に離脱する気よ!」


息が荒い。


悔しさが滲む。


だが。


ゲユタカが静かに言う。


「……否定できません」


「既に国家機能は揃っています」


ニシダトも低く呟く。


「軍事、財政、独立経済……」


サナディが目を伏せる。


「止める術はございませぬ」


沈黙。


マイヤンは拳を握りしめた。


悔しい。


だが理解している。


攻められない。


拒否できない。


民を飢えさせるわけにはいかない。


やがて、ゆっくり座り直す。


「……出席するわ」


低い声。


「そして、この目で確かめる」


「ユージという男を」


怒りは消えていない。


だが、理性が勝った。


魔王城――軍議の間


アサダが書簡を読む。


柔らかな指が止まる。


「……貸与、ですって?」


ロクローマルが机を叩く。


「借りだと!?我らが!?」


サムは静かに書簡を受け取る。


読み進める。


そして、わずかに息を吐く。


「……見事です」


ロクローマルが睨む。


「何がだ!」


サムは冷静だった。


「これは拘束ではありません」


「選択です」


室内が静まる。


「戦争を続ければ供給停止」


「和平を維持すれば返済可能」


「軍費を削減し、経済再建に回せば、五年で立ち直る」


アサダが小さく問う。


「つまり……」


サムはゆっくり言った。


「我らに、正しい道を選ばせているのです」


ロクローマルが唸る。


「脅しだ!」


サムの視線が鋭くなる。


「違います」


「脅しは選択肢を奪う」


「これは誤った選択を不可能にする設計です」


空気が凍る。


「軍事抑止」


「食糧供給」


「経済復興誘導」


「三重構造」


そして。


「前回のあなたの独断を不問にした」


ロクローマルが息を呑む。


「彼は道義的優位まで確保している」


サムは断言した。


「彼は戦場を制したのではない」


「戦争という概念を消しに来ている」


アサダが静かに微笑む。


「……恐ろしい方ね」


サムは続ける。


「この設計を、最初から描いていたとすれば――」


一瞬、言葉を切る。


「歴史に名を残す人物でしょう」


ロクローマルは拳を握るしかなかった。


アサダは穏やかに言う。


「和平式、参りましょう」


「武ではなく、言葉で応じます」


サムが深く一礼する。


「賢明なご判断です」


特区――執務室


ユージは青ざめていた。


「なあ」


ナーチャンとイコタンが振り向く。


「俺、貸与なんて話、してないよな?」


イコタンはにっこり。


「していません」


「なんですと!?」


ナーチャンが淡々と補足する。


「ですが合理的です」


イコタンが胸を張る。


「戦争をやめれば返せる」


「続ければ破綻」


「怒りますよ」


ユージが震える。


「怒るよな?」


「ええ」


「でも拒否できません」


イコタンは微笑む。


「これは支配ではありません」


「平和の設計です」


ナーチャンも頷く。


「ユージさま、これは秩序の創出です」


ユージは頭を抱える。


「なんで俺が黒幕みたいになってんだよ……」


窓の外。


ヤマットが静かに浮かぶ。


ホワイトタイガーが空を裂く。


世界は理解し始めていた。


戦争は終わる。


だが。


主導権は――


完全に移った。

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