第41話 希望のイージス
魔王国との交渉は、最終的に成立した。
アサダの一言で場は収まり、分配と恒久停戦の合意は内々に固まった。
だが――
その夜。
魔王城の一角で、豪将ロクローマルは拳を叩きつけていた。
「分け与えるだと?」
「誇りはどうした!」
彼の周囲には、忠誠心の厚い配下が集う。
「王は理を取った」
「ならば我らは力を示すのみ」
数百の精鋭。
夜陰に紛れ、特区へ向けて進軍を開始した。
特区――外縁監視塔。
「北西、未確認軍勢接近」
警鐘が鳴る。
リシュンが目を細める。
「来やがったか」
アルノルトが装置に手を走らせる。
中央制御塔が起動。
巨大な魔導結晶が輝き出す。
ナーチャンが即座に指示を出す。
「住民を地下区画へ避難」
「第一防衛ライン、起動」
ユージは顔をしかめる。
「話が違うぞ……」
夜空に、淡い光の幕が広がった。
透明な壁。
しかしその内側では、空気が震える。
ロクローマルの軍勢が突撃する。
「突破せよ!」
衝突。
だが――
鈍い音とともに弾き返される。
「なに?」
ロクローマルの眉が歪む。
その瞬間。
地面から光の柱が立ち上る。
包囲。
魔導拘束陣。
兵士たちが次々と転倒する。
魔力を封じられる。
上空。
静かに浮かぶ防衛結界。
リシュンが鼻で笑う。
「高度防衛システム《希望のイージス》」
アルノルトが補足する。
「攻撃検知型自動制圧機構です」
「殺さない設計ですのでご安心を」
数分後。
ロクローマルは膝をついていた。
無傷。
だが完敗。
ユージは頭を掻く。
「……あっけなさすぎない?」
ナーチャンは淡々と。
「戦力差がありすぎます」
翌日。
魔王アサダが直々に特区を訪れた。
ロクローマル以下、捕縛された兵が整列させられている。
アサダは玉座ではなく、地に膝をついた。
「……謝罪します」
その声は震えていた。
「我が国の統制不足」
「すべては私の責任です」
驚きが走る。
魔王が、涙を流していた。
ロクローマルが目を見開く。
「陛下……!」
ユージは困った顔をする。
「いや、そんな」
沈黙の中、彼は肩をすくめた。
「今回は勇み足ってことで不問に付すよ」
ざわめき。
「捕虜も無条件で返す」
ロクローマルを見る。
指さす。
「でも次は無いからな」
「覚悟しといてくれよ、特にそこのおっさん」
場が一瞬凍る。
ロクローマルは歯を食いしばる。
だが何も言えない。
アサダは深く頭を下げた。
「恩に着ます」
捕虜返還後。
広場。
タケシトがユージに近づく。
「リーダー、良かったのか?」
ユージは小声で答える。
「お前ならわかるだろ」
ちらりとアサダの方を見る。
「あんな美少女が涙流したら、許すしか無いだろ!」
タケシトは真顔で頷く。
「確かに、そりゃそうだ」
背後。
ナーチャンがじと目で見ている。
「……本当に仕方の無い人ですね」
ため息。
だが、すぐに微笑む。
「ですが、英断です」
「ここで問題にすれば、和平交渉は元の木阿弥でした」
ユージは笑う。
「だろ?」
ナーチャンは小さく頷いた。
「あなたの“甘さ”が、時に最善になります」
遠くで、ロクローマルが振り返る。
その瞳に宿るのは、屈辱か、それとも別の何かか。
特区の空には、静かに結界が輝いていた。
剣を防ぎ、
命を奪わず、
均衡を守る盾。
それが――
《希望のイージス》。
だが。
戦いは終わったわけではない。
火種は、まだくすぶっている。




