第40話 偶然、それとも策略…
魔王国――謁見の間。
重厚な石柱。
赤い絨毯。
視線が、ただ二人に集まる。
ユージとナーチャン。
逃げ場はない。
最初に口を開いたのは、軍師サムだった。
静かな声。
「一点、確認させていただきたい」
ユージの背中に汗が流れる。
「……なんだ」
サムはまっすぐ見つめる。
「我々に魔導砲を撃たせたのですか?」
空気が凍る。
「は?」
ユージは素で聞き返した。
サムは続ける。
「あの角度」
「あの方向」
「正確に地下水脈を貫き、水の流れを誘導し、最終的に貯水池へと収束させた」
「まさに神機妙算。偶然ではあり得ません」
ざわめき。
ユージは目を見開く。
「敵軍の攻撃をコントロールするなんて出来る訳ないだろ!」
本気で否定する。
「ただの偶然だよ!」
サムの視線は揺れない。
「偶然で、あそこまで整うと?」
「たまたまそうなっちゃったんだから仕方ないだろ!」
ユージは少し苛立つ。
「でもさ」
肩をすくめる。
「おかげで荒れ地が豊かな土地になった」
「細かいことはいいじゃないか」
沈黙。
サムは小さく息を吐いた。
「……あくまでしらを切るということですか」
「つくづく策士ですね、あなたというお人は」
「だから何のことだかわからん!」
ユージは両手を広げる。
「俺たちは交渉に来たんだ!」
その時。
魔王アサダが口を開いた。
低く、だが穏やかな声。
「なるほど」
「では、聞きましょう」
空気が少しだけ緩む。
ユージは深呼吸した。
「収穫の半分は特区の維持に使う」
「残り半分を、王国と魔王国で均等に分ける」
ざわめき。
ユージは続ける。
「その代わり」
「停戦を恒久化する」
「破れば、供給は止める」
静寂。
重い。
サムが目を細める。
「……なるほど」
低く唸る。
「実に巧妙に考えられた案ですね」
アサダが横目で見る。
「そこまで優れているのですか?」
サムは淡々と説明する。
「王国が独占すれば、我らは戦うしかない」
「我らが独占すれば、王国が戦う」
「だが、双方に等分されれば」
「戦争は自らの取り分を減らす行為になる」
間。
「つまり」
「戦争を起こせば損をする構造を作った」
謁見の間が静まり返る。
サムはさらに言う。
「しかも供給停止という抑止力付き」
「力で奪えば、自らの首を絞める」
アサダは静かに頷いた。
「……見事ですね」
「 さすがは経天緯地の経世の才」
「一分の隙もありませんね」
(なんのことか、さっぱりわからん…
ホントにもう、帰りたい…)
遠い目をしたユージを見て、サムが言った。
「偶然とは思えませんが」
「我々魔王国としても、飲まない訳にはいきません」
小さく笑う。
「してやられました」
緊張が解ける。
合意の空気。
だが。
その時。
石床を踏み鳴らす音。
豪将ロクローマルが一歩前へ出た。
巨体。
鋭い眼光。
「ふざけるな」
低く、唸るような声。
「なぜ我らが、王国と分け合わねばならぬ」
空気が再び張り詰める。
「力で奪えるものを、なぜ分ける」
その視線は、ユージを射抜く。
「この男の思惑通りに動く理由が、どこにある」
謁見の間が凍る。
アサダは黙る。
サムは目を細める。
ユージの背中に、冷や汗が流れる。
(あ、これやばいやつだ)
ナーチャンが一歩前に出ようとする。
だがロクローマルは続けた。
「戦を恐れる者に、未来はない」
静寂。
丸く収まったかに見えた均衡が、
再び揺れる。
武断派。
強硬派。
魔王国は一枚岩ではない。
ユージは唾を飲み込む。
次の一言で、
空気が裂ける。




