表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/48

第3話 測れない男は、測られている

 扉を開けると、そこには一人の少女が立っていた。


 年の頃は十代後半だろうか。

 落ち着いた色合いのローブに身を包み、腰には分厚い書類鞄。髪はきっちりまとめられ、視線は真っ直ぐ――だが、どこか緊張している。


「突然の訪問、失礼いたします」


 彼女は軽く頭を下げた。


「私はナーチャン。王城文官局所属です。

 本日より、ユージ様の――生活状況の確認と、経過観察を担当することになりました」


「……経過観察?」


 ユージは思わず聞き返した。


「俺、もう“不適格”って判断されたはずだけど?」


 ナーチャンは一瞬だけ言葉に詰まり、視線を逸らす。


「はい。公式判断としては、その通りです」


 しかし、と前置きしてから、続けた。


「ですが……測定結果に、いくつか“説明不能な点”がありまして」


 説明不能。


 その言葉に、ユージは内心で肩をすくめた。


「測れなかっただけじゃないの?」


「通常、“測定不能”という結果は存在しません」


 ナーチャンは即答した。


「魔力量がゼロであればゼロと出ますし、微量であっても数値は表示されます。

 ですがユージ様の場合、魔力が“存在しない”のではなく――」


 彼女は言葉を選ぶように、少し間を置いた。


「測定器が、反応そのものを拒否したのです」


「……拒否?」


「はい。古代式・近代式、双方の魔力測定器で同様の現象が確認されました」


 淡々とした報告。

 だが、その裏には明らかな違和感が滲んでいた。


「つまりは、どういうことだ?」


 ユージが言うと、ナーチャンは小さく言った。


「前例が、ありません」


 なるほど、前例が無いね。

 つまりそれは、”危険人物”と同義だ。

 勇者として役に立たないどころか、理解不能な存在。


 だからこそ――追い出さず、殺さず、監視する。


「それで、俺を観察?」


「はい。あくまで非公式です」


 ナーチャンはそう言って、書類鞄から一枚の紙を取り出した。


「当面の間、宿泊費は王城負担。

 城外での行動制限はありません。

 ただし――」


 彼女は視線を上げ、真っ直ぐユージを見る。


「定期的な報告への協力を、お願いします」


 条件としては、まあ悪くなかった。

 放置されるより、よほど好待遇と言っていい。


「……俺に、何を期待してる?」


 ユージの問いに、ナーチャンは即答しなかった。


 数秒の沈黙。


「正直に申し上げます」


 そう前置きしてから、彼女は言った。


「私たちは、ユージ様が“何者なのか”分かっていません」


 勇者でもない。

 魔法使いでもない。

 だが、測れない。


「だから――怖いのです」


 ナーチャンの声は、少しだけ震えていた。


「だから、見極めたいというのが本音です。

 有害なのか、無害なのか……あるいは――」


 言葉を濁したまま、彼女は口を閉じた。


 ユージは、しばらく黙っていた。


 そして、ふっと笑う。


「なるほど。

 要するに、俺は“得体の知れない厄介者”ってわけだ」


「……否定はできません」


「正直でよろしい」


 ユージは肩をすくめた。


「まあいいや。観察でも監視でも、好きにしてくれ」


 その反応に、ナーチャンは少し驚いたようだった。


「……よろしいのですか?」


「拒否して、野垂れ死にコースは勘弁だからな」


 現実的な理由だった。


 だが、もう一つ。


(どうせ、放っといても何か起きる)


 そういう予感が、どこかにあった。


「じゃあ、まずは街を案内してもらえるか?」


 ユージが言うと、ナーチャンは一瞬戸惑い、それから小さく微笑んで頷いた。


「……承知しました。非公式ですが」


 二人は宿を出る。


 石畳の街路。人と異種族が行き交う雑踏。

 その中で、ナーチャンは横目でユージを観察していた。


(魔力反応、なし)


(威圧感、なし)


(異常兆候、なし)


 ――だが。


 街の空気が、ほんのわずかに“馴染んでいる”。


 その違和感を、彼女はまだ言語化できなかった。


 この男が、

 世界を揺らす存在になるなど――

 この時点では、誰も想像すらしていなかったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ