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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ


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第29話 王女専属チーム構想

王都――謁見の間。


重厚な扉が閉じられると、室内の空気は一変した。


中央に浮かぶ魔導投影。


そこに映し出されているのは――


境界の砦。


巨大な戦艦。


白光を溜め込む発射口。


そして、直前で止まる一撃。


沈黙。


最初に口を開いたのは、老魔導士だった。


ニシダト・シユキ。


白い髭を撫でながら、低く呟く。


「……あり得ぬ」


「こんな魔導構造、理論上存在せん」


映像を拡大する。


回路構造。


光の収束。


魔力流動。


眉間に皺が寄る。


「仮に実在するとしても、王国の魔導炉を十基並列してようやく可能な規模じゃ」


「しかも、あの安定度……」


横で、近衛騎士団長ヒロ・サナディが腕を組む。


「撃てば、魔族軍は壊滅していたな」


短く言う。


悔しさを隠さない。


「なぜ撃たなかった」


空気が重くなる。


そのとき。


砦からの伝令兵が、震える声で言った。


「報告します」


「……あれは、幻影とのことです」


一斉に視線が集まる。


「幻影だと?」


サナディの声が低くなる。


「はい。投影型の立体魔導映像装置だとの報告を受領しました」


沈黙。


そして。


玉座に座る王女マイヤンが、ふっと笑った。


「なにそれ」


「ただの手品で魔族の大軍を退かせたってこと?」


肩を揺らす。


「滑稽ね」


「拍子抜けだわ」


空気が少し緩む。


だが。


ただ一人、笑っていない男がいた。


宰相ゲユタカ・マツシ。


細い目をわずかに細める。


「……滑稽、ですか」


静かな声。


マイヤンが視線を向ける。


「違うの?」


ゲユタカは一歩前に出る。


「問題は、幻影だったことではありません」


「幻影で十分だったこと、です」


室内が静まる。


「魔族軍は、撃たれる前に退いた」


「それは何を意味するか」


ニシダトが低く言う。


「本物か否か、判別できなかったということか」


「ええ」


ゲユタカは頷く。


「未知の兵器を前に、魔族はリスクを取れなかった」


「つまり――」


サナディが言葉を継ぐ。


「戦わずして勝利した、ということか」


ゲユタカの目が光る。


「幻影のみで盤面を動かした」


「これが偶然であるならば結構」


「だが意図的であれば――」


そこで、言葉を止める。


マイヤンが小さく首を傾げる。


「その調停官、そんなに頭が切れるようには見えなかったけど?」


映像に映るのは、焚き火の前でぼやく男。


魔力も検知されない。


武力もない。


ただのおっさん。


ニシダトが鼻を鳴らす。


「魔力なし」


サナディが言う。


「武もなし」


だが。


ゲユタカは静かに言った。


「だからこそ、です」


視線が集まる。


「魔力や武力を持たぬ者が英雄となった時」


「何が起きるか」


沈黙。


マイヤンの瞳が、わずかに鋭くなる。


ゲユタカは続ける。


「力なき者でも世界を動かせる」


「その前例が生まれる」


「それは、王国の秩序にとって最も危険です」


ニシダトが小さく唸る。


「理屈では測れぬ存在か」


サナディが腕を組む。


「戦わずに勝つ男、か」


マイヤンは、しばらく黙っていた。


そして、口元を緩める。


「面白いじゃない」


全員が見る。


「魔力も武力もない」


「でも、魔族軍を退かせた」


「なら――」


立ち上がる。


「使いましょう」


「対魔族の“新戦力”として」


ゲユタカの目が細くなる。


「監視は?」


「当然続けるわ」


マイヤンは即答する。


「でも押さえつけるより、囲い込む方がいい」


少し楽しそうに。


「英雄を恐れる国は、衰退するのよ」


「なので」


「タスクフォースを編成する」


「リーダーは彼」


「もちろん、私専属のチーム、ね」


空気が動いた。


ニシダトは渋い顔。


サナディは無言。


ゲユタカは、内心で計算していた。


(英雄は、時に王を食う)


(王国を救う千載一遇のチャンスか……それとも破滅の罠か…)


(いずれにせよ、もはや後戻りは出来ぬ)


マイヤンが言う。


「あの連中を呼びなさい」


「正式に動かすわよ」


扉が開き、伝令が走る。


王都が、動き始める。


その頃――


境界の砦では。


ユージがまだ床に転がっていた。


「……頼むから忘れてくれ……」


だが、忘れられるはずもない。


名前が、独り歩きし始めていた。


戦は起きていない。


だが。


王国も魔王国も、


同じ男を中心に、静かに駒を動かし始めている。


均衡は、剣を収めたまま、別の場へ移った。


今度は――外交という名の戦場へ。

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