第17話 おっさん、選ばさせられる
王国兵は、堂々と街道を進んできた。
旗印は明確。
正規軍だ。
数は十。
昨日の三人とは、明らかに違う。
「……やっぱ来たか」
ユージは、村の入口に立った。
背後では、村人たちが固唾を飲んで見守っている。
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兵の隊長らしき男が、前に出た。
「貴様が、例の旅人か」
「そうだけど」
「王国兵に手を出したな」
「出してない。
出す前に帰ってもらった」
「結果は同じだ」
隊長は、冷たく言い放つ。
「王国の権威を傷つけた」
「大げさだな」
「そうでもない」
剣に手がかかる。
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「命令だ」
隊長が言った。
「この村から離れ、
王都へ同行しろ」
「拒否権は?」
「ない」
ユージは、ため息をついた。
「……だろうな」
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背後で、村人がざわめく。
「連れて行かれるのか……?」
「勇者様が……?」
「やめてください!」
子どもの声。
ユージは、振り返らなかった。
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「で?」
ユージは、隊長を見る。
「俺が行かなかったら?」
「この村は、
“王国に逆らった村”として処理される」
静かな脅し。
確実なやり方。
「……なるほど」
ユージは、ゆっくり頷いた。
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その瞬間。
視線を感じた。
森の奥。
霧の向こう。
魔族だ。
――見ている。
試している。
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「なあ、隊長さん」
ユージは、穏やかに言った。
「一つ、提案がある」
「聞く必要はない」
「時間は取らせないさ」
「聞くだけならタダだろ?」
隊長は、黙った。
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「この村は、王国に反旗を翻したわけじゃない」
「だが――」
「俺が、勝手に動いただけだ」
「だから?」
「面倒事は、俺が引き受けるのが筋だ」
村人たちが、息を呑む。
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「そして俺は、王国の敵じゃない」
ユージは続けた。
「でも、味方とも言い切れない」
「ふざけた立場だな」
「そうかもな」
ユージは、肩をすくめた。
「だから――」
一歩、前に出る。
「俺を、“王国の外部協力者”にしろ」
隊長の眉が、動いた。
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「どういう意味だ」
「俺は王都に戻らない」
「だが、逆らいもしない」
「王国兵が、この村を守る理由が欲しいなら」
ユージは、はっきり言った。
「俺が、その理由になろう」
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沈黙。
風が、吹き抜ける。
「……貴様」
隊長は、低く唸った。
「自分が何を言っているかわかっているのか」
「まあ、もちろん」
「その立場は――」
「責任だけ重くて、
メリットがほとんどない」
ユージは、笑った。
「でも、生憎俺は、そういうのには慣れてる」
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隊長は、部下たちを見る。
魔族の気配を、感じてはいない。
だが――
空気が張っているのは、分かる。
「……判断は、俺一人ではできん」
「だろうな」
「だが」
隊長は、剣から手を離した。
「今日のところは、引く」
村人たちが、ざわめいた。
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「条件がある」
「聞こう」
「もし仮に、この村で、
王国に不利な動きがあれば」
「俺が止める」
即答。
「ただし、逆もだ」
「……何?」
「王国が、この村を利用しようとしたら」
ユージの目が、鋭くなる。
「その時も、俺が止める」
隊長は、しばらくユージを見つめていた。
「……厄介な男だ」
「よく言われる」
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王国兵は、撤退した。
完全ではない。
だが――今は、それでいい。
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森の奥。
角の女が、静かに笑った。
「ほう……」
「選ばなかったな」
「いや」
別の魔族が言う。
「別の立場を作った」
「面倒な」
「だが、興味深い」
彼女は、霧の中で呟いた。
「――監視継続だな」
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夕方。
村に、安堵が戻る。
泣き出す者もいた。
「ありがとう……」
村長が、震える声で言う。
ユージは、首を振った。
「まだ終わってない」
「え……?」
「むしろ、ここからの方が面倒だろうさ」
空を見上げる。
「王国にも、魔族にも、
名前を知られた」
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焚き火の前。
ユージは、一人座っていた。
「……選ばされたとはいえ、もう引き返せないよな」
だが。
後悔は、なかった。
「ま、いいか」
木杯を傾ける。
「どうせ、
最初から決まった予定なんて無かったし」
「……のんびり行くとするか」




