第14話 おっさん、誤解される(いつものやつ)
翌朝。
ユージは、やけに重たい空気で目を覚ました。
「……なんだ?」
視線を上げると、
宿の一階――というか、村の集会所のような場所――に、人がぎっしり集まっている。
老若男女。
全員、こちらを見ている。
正確には――
祈るような目で。
「……嫌な予感しかしない」
⸻
「勇者様!」
一人が声を上げた。
「勇者様、お目覚めです!」
「いや待って、誰が勇者――」
「昨日の御威光、まことにありがとうございました!」
「圧で兵士を退けるなど、神話そのもの!」
「我らの村に、ついに救いが……!」
次々と頭が下がる。
深々と。
全力で。
ユージは、両手を振った。
「ちょ、ちょっと待って!
話が三段飛ばしくらいで進んでる!」
⸻
村長が、前に出た。
目が潤んでいる。
「勇者様……
昨夜、王国兵が戻ってきませんでした」
「うん」
「おそらく、もうこの村には来ないでしょう」
「……それは、まあ」
「つまり――」
村長は、確信に満ちた声で言った。
「我らは、解放されたのです!」
どよっ、と歓声が上がる。
「いやいやいや!」
ユージは頭を抱えた。
「違うから!
俺、ただの通りすがりで何もしてないから!」
「謙遜なさらず!」
「圧だけで兵士を退けるなど、
古い神話の勇者そのもの!」
「いや、それはたまたま――」
「ホント俺も良くわかんないんだよ!」
「王都を追われ、民を救い歩く……!」
「待って待って!勝手に美化しないでくれる!」
⸻
そこへ。
「勇者様!」
若い女性が駆け寄ってきた。
「こちらを……!」
差し出されたのは、
パン、干し肉、薬草――
明らかに、村の備蓄。
「いらないいらない!」
「受け取ってください!」
「いや、これ取ったら俺、完全に勇者ルートじゃん!」
「もう入っています!」
「いま、村の女総出で、勇者饅頭に勇者煎餅の試作品を作っているところです」
「えっ」
⸻
混乱の中。
外から、足音。
「失礼します……」
入ってきたのは、旅装の商人だった。
「こちらの村で、“勇者様”が現れたと聞きまして」
ユージは、硬直した。
「……は?」
「王国兵を圧倒したとか」
「一晩で?」
「噂は早いのです」
商人は、にこやかに続けた。
「すでに近隣の村では、
“新しい勇者が動き出した”と話題ですよ」
「早速商いの話も動き始めています」
「……おい村長」
ユージは、低い声で言った。
「誰に何を言った?」
「事実を、そのまま……近隣の村々に」
「盛った?」
「少々……」
「どのくらい?」
「神話レベルで」
「おいこら!やめろ!」
⸻
外が、騒がしい。
子どもたちの声。
「勇者さまだー!」
「昨日の人だ!」
「すごーい!」
ユージは、天を仰いだ。
「……これ、完全に詰んでない?」
「勘弁してくれ…」
⸻
昼。
ユージは、村の外れで一人になった。
「王都の外だから自由、って話だったよな」
自由とは。
誤解される自由なのか。
「……ナーチャンなら、なんて言うかな」
脳内で、冷静な声が響く。
――“想定内です。対応を誤らないでください”
「無理だろ」
⸻
そのとき。
遠くの丘に、影が見えた。
人影。
武装している。
数は――三人以上。
「……来たな」
王国兵か。
あるいは、別の何か。
ユージは、深く息を吐いた。
「仕方ないなぁ」
「でもまあ――行きがかり上、逃げる訳には行かないよな」
村の方からは、子どもの笑い声が聞こえた。
昨日まで、怯えていた連中だ。
「……ほんと、厄介だな」
だが。
口元は、少しだけ上がっていた。




