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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第一部 ユージア国誕生編

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第1話 枯れたおっさんが異世界に呼ばれた?

本作は完結済の拙作「枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う」を、

登場人物はそのままに、

「読みやすさ」「テンポ」を重視して

全く新しい物語として再構成したものです。


初めての方も、既読の方も、

原作とは異なる展開や、新たな驚きを楽しんでいただければ幸いです。

  ――眩しかった。


 目を開けた瞬間、視界いっぱいに白い光が弾け、ユージは反射的に腕で顔を覆った。

 まぶたの裏がじんと痛む。


 鼻腔を突くのは、埃と石、それから微かに香る香の匂い。

 耳鳴りがする。まるで大型重機のすぐ横で、いきなりエンジンを吹かされたような感覚だった。


「……なんだ、ここ……?」


 掠れた声が、やけに広く反響した。


 ゆっくりと腕を下ろす。

 そこにあったのは、見覚えのない天井だった。


 高く、重厚で、幾何学的な装飾が施された石造りの天井。

 クレーンも照明も配管もない。

 古城のホール――そう形容するのが一番しっくりくる光景に、ユージの思考は一瞬、完全に停止した。


(……いやいやいや)


 思わず心の中でツッコミを入れる。


 さっきまで自分は、確かに日本にいた。


 最後に覚えているのは、日本の港湾地区。

 産業廃棄物処理場の現場で、役所とのやり取りにうんざりしていたところまでだ。

 徹夜明け。疲労。コーヒー。――そして、記憶が途切れる。


 少なくとも――

 こんなファンタジー映画のセットみたいな場所で目を覚ます予定はなかった。


 反射材付きのくたびれた作業着。

 怪我防止用の皮手袋。

 使い込んで汚れた安全靴。


 いつも通りだ。

 ユージは思わず苦笑した。


「寝落ちしたかな?しかし夢にしては、やけに具体的だな」


「……おい」


 ぼんやりしていたユージに対して、低く、冷たい声が響いた。


 声の主は、正面に立つ男だった。

 豪奢な衣装を纏いながらも、表情は険しく、こちらを値踏みするような視線を向けている。


「名を名乗れ。貴様は、召喚された勇者か?」


 勇者。


 その単語を聞いた瞬間、ユージは一気に現実へと引き戻された。


「……は?」


 喉から漏れた声は、我ながら間抜けだった。


「いや、ちょっと待ってよ!俺、四十過ぎのおっさんだよ?

 ほら!どっからどう見ても、剣と魔法で世界を救うタイプじゃないでしょ?」


 兵士たちの間に、微かなざわめきが走る。

 だが、男は眉一つ動かさない。


「年齢は問題ではない。我々が必要としているのは“力”だ」


 そう言って、男は顎で合図をした。


 すると、兵士の一人が、台座の上に置かれた水晶球を運んでくる。

 透明で、美しく、どこか不穏な光を内包した球体だった。


「魔力測定を行う。手を置け」


「……いや、展開が雑すぎるんですけど?」


 ツッコミを入れつつも、ユージは周囲の空気を察して従った。

 ここで抵抗しても、ろくなことにならない。

 そういう勘だけは、長年の現場仕事で鍛えられている。


 そして、ユージは素直に手のひらを水晶にかざした。

 と、その瞬間――


 ピシッ、と、微かな音がした。


「……え?」


 水晶の表面に、細い亀裂が走る。


 次の瞬間、光が乱れ、数値のような文字列が浮かび上がったかと思うと、すぐに消えた。


 沈黙。


 兵士たちの表情が、露骨に変わる。


「……測定不能?」


「いや、今のは……」


「まさか、失敗か?」


 囁き合う声。

 正面の男は、深く息を吐いた。


「……勇者としては、不適格だな」


 その一言が、静かに、しかしはっきりとユージに突き刺さった。


「はあ……まあ、ですよね」


 ユージは肩をすくめた。


 期待されても困る。

 自分はただの産廃屋だ。

 資格も免許も、それなりに持ってはいるが、世界を救うためのものじゃない。


「……処遇は追って決める」


 男はそう言い残し、踵を返した。


 兵士たちも、興味を失ったように視線を逸らす。

 さっきまでの緊張感は消え、代わりに、厄介な荷物を見るような空気だけが残った。


「……なんだこれ」


 ユージは一人、ぽつりと呟いた。


 異世界。召喚。勇者失格。


 状況は最悪だ。

 だが、不思議とパニックにはならなかった。


 ――どうせ、人生なんて予定通りにいかない。


 そう思える程度には、ユージはもう、酸いも甘いも噛み分けた年齢だった。


 この世界で、何が起きるのか。

 自分が、どう扱われるのか。


「……まあ、なるようになるか」


 その時はまだ、

 この“ハズレ扱い”の男が、やがて世界の在り方そのものを揺るがす存在になるなど、

 誰一人として、想像していなかった。

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