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悪役令嬢だって悪くない  作者: めめんちょもり
この不条理を変えてみせる
59/66

容赦ないね

そして―――


パゴクロークスは、エマの斬撃によって上半身と下半身が綺麗に分かれ、雪原の上へとどさりと崩れ落ちた。

白い息を荒く吐きながら、エマはその場にしゃがみ込み、「はぁぁ……」と長く深い溜め息をつく。

さすがのエマも、クレバスだらけの高所で剣術を連発したのは堪えたらしい。


「なんとか……倒せました……」


小さく呟いたそのとき、クレバスの縁からひょこっとオマハの頭が出てきた。

ようやく這い上がってきたらしい。


「にしたって!!なんで加勢してくれなかったんですか!?」


エマがぷくっと頬を膨らませて詰め寄ると、オマハは慌てて手を振りながら言い訳を始める。


「いやいや、僕は“魔剣士”なんだよ? 機動力はそんなに高くないし、近接専門ってわけでもない。器用貧乏なんだよ、分かるね?ね?」


「それだったら……私だって……」


むくれてそう言うと、エマは前方から迫ってきていた別の魔物―――B級ノースアイスへ向け、青色のファイアバレットを放つ。

それは氷のゴーレムのようなノースアイスの顔へ直撃し、じゅわっと音を立てて溶かしながら砕け散らせた。


「……相変わらず容赦ないね」

「残しておくと面倒な相手のように見えたので」


戦闘後、ふと時計を見ると――まだ登山開始から3時間ほどしか経っていない。

標高でいえば約300メートルほど。

この世界の山は、物理的にも魔物的にも、どう考えても人間に優しくなかった。


オマハが雪を払いつつ言う。


「あと1時間ほど登ったら、どこかでキャンプにしよう。日も暮れるしね」

「行けるところまで行きましょうか」

「そうだね。そうしよう」


二人は再び無言で黙々と登り続けた。

息は多少弾むものの、どこか淡々としたリズムで足を進めていく。

結局、その1時間は何事もなく過ぎ――


午後6時、二人は視界の開けた少し高台の場所に到達する。


オマハが辺りを見渡しながら言う。


「魔物には見つかりやすいけど……ここなら逆に戦いやすい。今日はここでキャンプしよう」


そう言うや否や、オマハは手慣れた様子でテントを組み始める。

エマも無言でそれに続き、約20分後には二張りのテントが完成した。


オマハは魔法で火を起こし、パチパチと弾ける音とともに焚き火が広がる。

だが、この世界にインスタント食品なんて存在しない。

乾燥肉、乾パン、そして―――ついでと言わんばかりのさっき倒したパゴクロークスの肉。


エマはその肉塊を見て妙にショックを受けている様子だった。


「本当に魔物の肉を食べるんですか……?」

「まあ、君が固い干し肉と味のしない乾パンで十分って言うならね?」

「うっ……」

「じゃ、決まりだね!!」


嬉々として準備に取りかかろうとするオマハ。

さっきエマが仕留めた直後、ちゃっかり解体していたらしい。


オマハが肉へ塩を軽くまぶして焼こうとしたその瞬間―――


「私が調理します!!」


エマがそう言ってオマハの肩を掴み、軽く放り投げる。

転がるオマハを涙目で横目にしながら、エマは真剣な顔でまな板代わりの板を取り出した。


「ところで今から何を作るんだい?」

「幸い、周囲は雪だらけで水の確保には困りませんから……スープでも作りましょう」

「味付けは?」

「干し肉の塩気……と思ったのですが、こういう時のために最低限の塩と砂糖、唐辛子を持ってきています。それを使います」


「はは、用意周到だね」

「そうでもしなければ侍女としての務めは果たせません」

「じゃあ僕は何をすれば?」

「お湯を沸かしてください。あの肉が浸かるくらいの量で」


エマが指さしたのは、手のひらより一回り大きい肉塊。


「鍋はどうするの?」

「これで」


エマはザックを漁り、鍋をオマハへ投げつける。


「危なっ!!」

「それ使ってください」


――なんて危険な子なんだ。

そう思いながら鍋を受け取るオマハなのであった。

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