容赦ないね
そして―――
パゴクロークスは、エマの斬撃によって上半身と下半身が綺麗に分かれ、雪原の上へとどさりと崩れ落ちた。
白い息を荒く吐きながら、エマはその場にしゃがみ込み、「はぁぁ……」と長く深い溜め息をつく。
さすがのエマも、クレバスだらけの高所で剣術を連発したのは堪えたらしい。
「なんとか……倒せました……」
小さく呟いたそのとき、クレバスの縁からひょこっとオマハの頭が出てきた。
ようやく這い上がってきたらしい。
「にしたって!!なんで加勢してくれなかったんですか!?」
エマがぷくっと頬を膨らませて詰め寄ると、オマハは慌てて手を振りながら言い訳を始める。
「いやいや、僕は“魔剣士”なんだよ? 機動力はそんなに高くないし、近接専門ってわけでもない。器用貧乏なんだよ、分かるね?ね?」
「それだったら……私だって……」
むくれてそう言うと、エマは前方から迫ってきていた別の魔物―――B級ノースアイスへ向け、青色のファイアバレットを放つ。
それは氷のゴーレムのようなノースアイスの顔へ直撃し、じゅわっと音を立てて溶かしながら砕け散らせた。
「……相変わらず容赦ないね」
「残しておくと面倒な相手のように見えたので」
戦闘後、ふと時計を見ると――まだ登山開始から3時間ほどしか経っていない。
標高でいえば約300メートルほど。
この世界の山は、物理的にも魔物的にも、どう考えても人間に優しくなかった。
オマハが雪を払いつつ言う。
「あと1時間ほど登ったら、どこかでキャンプにしよう。日も暮れるしね」
「行けるところまで行きましょうか」
「そうだね。そうしよう」
二人は再び無言で黙々と登り続けた。
息は多少弾むものの、どこか淡々としたリズムで足を進めていく。
結局、その1時間は何事もなく過ぎ――
午後6時、二人は視界の開けた少し高台の場所に到達する。
オマハが辺りを見渡しながら言う。
「魔物には見つかりやすいけど……ここなら逆に戦いやすい。今日はここでキャンプしよう」
そう言うや否や、オマハは手慣れた様子でテントを組み始める。
エマも無言でそれに続き、約20分後には二張りのテントが完成した。
オマハは魔法で火を起こし、パチパチと弾ける音とともに焚き火が広がる。
だが、この世界にインスタント食品なんて存在しない。
乾燥肉、乾パン、そして―――ついでと言わんばかりのさっき倒したパゴクロークスの肉。
エマはその肉塊を見て妙にショックを受けている様子だった。
「本当に魔物の肉を食べるんですか……?」
「まあ、君が固い干し肉と味のしない乾パンで十分って言うならね?」
「うっ……」
「じゃ、決まりだね!!」
嬉々として準備に取りかかろうとするオマハ。
さっきエマが仕留めた直後、ちゃっかり解体していたらしい。
オマハが肉へ塩を軽くまぶして焼こうとしたその瞬間―――
「私が調理します!!」
エマがそう言ってオマハの肩を掴み、軽く放り投げる。
転がるオマハを涙目で横目にしながら、エマは真剣な顔でまな板代わりの板を取り出した。
「ところで今から何を作るんだい?」
「幸い、周囲は雪だらけで水の確保には困りませんから……スープでも作りましょう」
「味付けは?」
「干し肉の塩気……と思ったのですが、こういう時のために最低限の塩と砂糖、唐辛子を持ってきています。それを使います」
「はは、用意周到だね」
「そうでもしなければ侍女としての務めは果たせません」
「じゃあ僕は何をすれば?」
「お湯を沸かしてください。あの肉が浸かるくらいの量で」
エマが指さしたのは、手のひらより一回り大きい肉塊。
「鍋はどうするの?」
「これで」
エマはザックを漁り、鍋をオマハへ投げつける。
「危なっ!!」
「それ使ってください」
――なんて危険な子なんだ。
そう思いながら鍋を受け取るオマハなのであった。




