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悪役令嬢だって悪くない  作者: めめんちょもり
この不条理を変えてみせる
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天国への階段

どれだけ登っただろうか。

雪は深く、足跡はすぐに風で消え、いつの間にか太陽もどこにあるのか分からなくなっていた。

そんな中、エマとオマハの前に影のようにせり出してきた巨岩の塔――― チンネ。


想像以上の大きさだった。

見上げれば空が欠けるほど高く、まるで天と地を繋いでいるかのような切り立った岩の壁。


エマは思わず足を止めた。


「でっか……」


口から零れたのは感嘆というより困惑。

これ…流石にいかないよね…?


その隣でオマハは、まるでちょっとした段差でも見るような顔で言った。


「どうせだし、迂回するのも面倒だから突っ切ろうか」


「……!?オマハさん!?これ登るんですか!?」


まるで―――

そう、剣岳のチンネ左稜線みたいな、天国への階段のような―――


エマは目を丸くしたまま固まっていると、オマハが首を傾げる。


「どうしたの?魔物でも見つけた?」

「い、いえ……魔物はそこら中にいますが……。本当にこれを登るんですか?ほら、迂回すれば……」

「登らない以外手はないよ〜。迂回するとかなりのタイムロスになるしね」

「……そうですか」


言い切るオマハの後を、エマは若干の戸惑いを抱えたまま追いかける。

だが登り始めてみると、案外手足の置き場は多く、雪の多いこの山脈にしては安定した壁だった。


―――もっとも、普通の冒険者なら絶対に来ないだろうけれど。


二人はひょいひょいと登り、やがてチンネの頂に立った。


そこから見下ろす谷は深く、狭く、そして……異様に色鮮やかだった。


「……なに、あれ…」


谷底には、登山者の道具らしきものが散乱していた。

赤、青、黄色、紫、白―――

色とりどりの装備が雪の上に散らばり、その光景はまるで…まるで虹の谷のように―――


だが美しさより先に感じたのは、嫌な予感。


エマは目を凝らした。


「……ま、待って……まだ、生きてる人が……います……」


谷底。

荷物の山の隙間で、一人の登山者が動いていた。

上半身を起こし、雪を掴み、必死に生きようとしている。


だが、そのすぐ後ろに―――影が近づいていた。


魔物だ。


エマの呼吸が止まる。


「オマハさん―――」


言いかけた瞬間、オマハは視線を逸らした。

見下ろすこともせず、そのまま歩き出す。


「……オマハさん!?」


エマは声を荒げかけるが、足元の雪に吸い込まれていくように声が弱まった。


谷底での光景は残酷だった。

魔物が、ゆっくりと生存者に近づいていき……

そして―――


エマは目を逸らすことができなかった。


その人が消えても、二人は立ち止まらなかった。

オマハの背中は変わらず前を向いている。


エマは、しばらく沈黙のまま歩いた後、小さく呟いた。


「……あれも、A級冒険者になるのですか……?」


オマハは淡々と答える。


「まぁ、この山は道中も危険だし。あそこまで行けてるってことは、かなりの手練だろうね」


「……助けることは、出来たでしょうか」


「谷底に降りるまでにかなりの時間がかかる。自分たちの命を危険に晒すことになる。それに、あれだけの数の道具が散乱してるなら―――相当の死体がある」


「……それだけ魔物も多いということですか?」


「うん。それに、あんな谷、普通なら落ちることはな―――」


その瞬間。


オマハの姿が視界から消えた。


「……え?」


エマが振り向くと、地面が裂けていた。

まるで大地が喉を開けたように黒い穴が走り、その中にオマハが身体を落としている。


巨大な――― クレバス。


「オマハさん!! 大丈夫ですか!?」


「なんとか!!ピッケルが刺さってくれた!!」


エマが駆け寄り、身を乗り出す。

オマハは片手でピッケルを氷壁に引っかけ、必死に体を支えていた。


一安心した、その―――ほんの数秒後。


谷底から、重たい足音。

空気が震える低い咆哮。

さっきの登山者を襲った、あの巨大な影が―――


パゴクロークス。


雪煙を巻き上げ、エマたちの前に姿を現した。


氷の角。

黒い体毛。

そして谷に響く、凍てつく唸り声。


また……魔物だ。

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