運命を変えてみせます
朝、サロンの窓辺で紅茶を飲みながら、ぼんやりと考えていた。
――なぜ、彼女は処刑されたのだろう。
ゲームの中では、あまりにもあっけなかった。
婚約破棄。理由は「嫉妬」。
聖女をいじめた罪で、断罪。
そして、王命による公開処刑。
それだけ。
だけど、今目の前でパンをもぐもぐしてるこの人が、
そんなことをするだろうか?
「エマ、どうしたの?」
レティシア様が、紅茶のカップを両手で包みながら首をかしげる。
その仕草があまりに無防備で、胸が痛んだ。
「いえ……少し、考えごとを」
「ふふ、難しい顔してるわ」
「お嬢様のほうが難しい顔をする日が来るかもしれません」
「また数学の話?したら許さないわよ」
「……そうだといいのですが」
彼女は知らない。
この世界が“物語の中”であることも、
自分が“悲劇の結末”に向かう運命であることも。
けれど、私は知っている。
ゲームでは、彼女は主人公――皇子に婚約を破棄される。
理由は「聖女セリアへの嫉妬」
けれど、セリアをいじめた描写はほとんどと言っていいほどなかった。
ただ「嫉妬に狂った」としか語られず、断罪される。
物語は“都合よく”彼女を悪役にした。
……けれど、ここにいる彼女は。
誰かを羨むより、誰かを笑わせようとする人だ。
紅茶をこぼして笑い、算数に泣き、ピアノに夢中になる。
そんな人が、誰かを傷つける?
ありえない。
だから私は考えた。
きっと、何かがあったんだ。
本当に彼女が何かをしたのかもしれない。
彼女を陥れる者がいたのかもしれない。
聖女を名乗る誰かが、彼女の善意を裏切ったのかもしれない。
――あるいは、彼女が誰かを守ろうとして、自分が罪を被ったのか。
紅茶の香りが冷めていく。
外では小鳥が鳴いている。
この穏やかな朝に、そんな未来が待っているなんて、信じたくなかった。
「レティシア様」
「どうしたの?」
「もし私が悪いことをしたら、叱ってくれるでしょうか?」
「もちろん!!」
「では、私が世界の人々に責められるようなことがあれば?」
「私はあなたの味方よ」
レティシア様は、少しだけ目を細めて笑った。
その笑顔が、やけに遠く感じた。
私はただ、心の奥で誓った。
――あの結末だけは、絶対に変えてみせる。




